Dog Dental Diseases
犬の歯の病気
Periodontal Disease
歯周病
歯周病とは?
犬では2歳で70%、3歳で80%、7歳で100%が歯周病とされています。
歯周病は、歯の周囲の組織に炎症を引き起こす病気で、歯肉の炎症から始まり、悪化すると歯槽骨や歯根膜などの組織が破壊されます。
歯周病は、口腔内の問題だけではなく、全身の健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。歯周病菌が血流に乗って体内を巡ることで、心臓、腎臓、肝臓などに重大な健康問題を引き起こすリスクがあります。また、慢性的な痛みや不快感が生活の質を著しく低下させることもあります。
歯周病の原因

歯周病の主な原因は、口腔内に蓄積する歯垢(プラーク)です。
歯の表面に付着する歯垢(プラーク)には、酸素を必要とする好気性菌と酸素を必要としない嫌気性菌が存在します。
歯周病の原因となる歯周病菌は嫌気性菌であり、酸素が存在しない歯肉の下や歯周ポケットの奥深くに生息します。
嫌気性菌は炎症を起こす物質(サイトカインなど)や組織を破壊する酵素(コラゲナーゼなど)を分泌し、歯周病を引き起こします。
また、歯垢が放置されると、硬くなって歯石となります。犬は歯垢が石灰化して歯石に変化するまでの時間が短いです(人:25日、犬:3~5日)。歯石は歯周病の直接的な原因ではありませんが、歯石が歯茎を刺激し炎症を引き起こします。
歯周病の症状
口臭が強くなる
よだれが多くなる
歯茎が赤く腫れている
歯に歯石がついている
食べ物を食べる時に痛がる
歯茎から血が出る
診断


視覚的な検査で歯石や歯垢の蓄積状況、炎症の程度、動揺度などを確認します。
また、歯科X線検査で歯根や歯槽骨の破壊の程度を確認します。
左の写真は正常な犬の歯のレントゲンで、右の写真は重度歯周病の犬の歯のレントゲンです。左の写真は歯槽骨がしっかりとありますが、右の写真では歯槽骨が破壊されているため黒く抜けてしまっています。
治療方法
治療法は、歯周病の進行度によって異なります。
軽度では超音波スケーラーという器具を用いて、超音波の微細な振動によって歯の表面および歯肉の下(歯肉縁下)をクリーニングします。中等度から重度では歯肉を切り開いて歯周ポケットの深いところまでクリーニングを行います。
また、重度の歯周炎により、損傷や動揺の程度が強い場合には抜歯を行います。
Tooth Fracture
破折
破折とは?
破折(はせつ)とは、硬いものを噛んだり、ぶつけたりすることで歯が部分的または完全に折れることを指します。
破折が発生すると、歯の内部が露出し、神経や血管に影響を与えることがあります。
破折した歯は、放置すると感染を引き起こす原因となるため、早急に処置を行う必要があります。
治療方法
破折の治療法は露髄(歯の神経の露出)の有無によって変わります。
【 露髄がない場合 】-
歯の修復
歯髄(歯の神経)が露出していない軽度の破折の場合、歯の修復が可能です。
歯の破片を再接着したり、歯の欠けた部分を補填します。
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抜歯
歯の破折が重度で神経まで達している場合、歯を抜くこともあります。
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抜髄根管治療
歯の中の神経や血管を取り除き、歯の内部を清潔に保つことで、再発を防ぎます。
抜歯せずに歯を残したい場合に有効な治療法です。
歯の修復について
歯の補填にはコンポジットレジンという歯科用プラスチックを用いることが多いです。
ただ、コンポジットレジンは元の歯よりも強度が弱く、再び欠けてしまうこともあります。
そのため、当院ではより強度のある「クラウン」という被せものによる修復も行っています。


Impacted Tooth
埋伏歯
埋伏歯とは?
埋伏歯(まいふくし)は、歯が正常に萌出せず、顎骨や歯肉の中に埋もれている状態のことを指します。埋伏歯を放置していると、含歯性嚢胞という袋状のできものが形成され、周囲の顎の骨を溶かしてしまいます。
【 埋伏歯の症例 】





埋伏歯の原因
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歯の生え方の異常
顎の骨が小さい小型犬では歯が生えるスペースが足りず埋伏歯になりやすいです。
また歯根が異常な角度で発達することが原因となります。 -
歯の発育不良
歯の発育が正常に進まないことも、埋伏歯を引き起こす原因です。
発育不良が起こると、歯が正常に生えることができずに埋もれてしまいます。 -
遺伝的要因
チワワなどの犬種では、埋伏歯が発生しやすい傾向があります。
遺伝的な要因が影響している場合もあるため、同じ犬種や血統の犬で発生することが多いことがあります。
治療方法
埋伏歯がある場合は、抜歯をすることが重要です。
当院では歯科処置の際に必ず全ての歯のレントゲンを撮影し、埋伏歯がないか確認しています。
Retained Deciduous Tooth
乳歯遺残
乳歯遺残とは?
犬の歯は一般的に生後4〜6ヶ月くらいで、乳歯から永久歯に生え変わります。その過程でうまく生え変わらず、永久歯が生えても乳歯が残っている場合を乳歯遺残と言います。乳歯が残ることで永久歯の生える場所がずれてしまい、口の中に外傷を起こすことがあります。

治療方法
乳歯が残っている場合は、全身麻酔下で乳歯を抜歯します。
当院では、多くの場合不妊手術と同時に乳歯抜歯を行います。
また、乳歯遺残があると永久歯のかみ合わせがずれることがあります。
この場合、正常なかみ合わせになるように矯正を行います。
定期的な乳歯チェック
当院では乳歯の生え変わり時期である生後4~6か月齢の間は週1回程の定期健診を推奨しています。
特に生後5~6か月頃は歯の生え変わりが早いため、自宅でも乳歯が抜けていないか注意深く観察しましょう。
子犬の頃の適切な歯の管理が、その後の歯の健康につながります。
Oral Cutaneous Fistula
外歯瘻
外歯瘻とは?
歯周病による感染や破折(歯が折れること)により露出した歯の内部への感染が原因で、頬や顎の皮膚に穴が開き、膿が排出される状態です。
歯周病や歯根の感染が原因で起こることが多く、放置すると痛みや感染の拡大を招くため、早期の治療が必要です。
外歯瘻の原因
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歯周病
歯垢や歯石が蓄積し、歯根に感染が広がることで発生します。
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歯の破折
硬いものを噛んで歯が折れ、歯髄(歯の神経)が露出するとそこから感染が進行します。
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根尖周囲膿瘍
歯根周囲に膿が溜まり、外に排出されることで皮膚に穴が開きます。
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異物の侵入
木片や骨などが歯肉に刺さり、炎症を引き起こすこともあります。
特に上顎の奥歯(第4前臼歯)の感染が原因になることが多く、頬に外歯瘻が見られるケースがよくあります。
治療方法
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抜歯
感染した歯を抜くことで炎症の原因を取り除きます。
重度の歯周病や歯根が破壊されている場合に行われます。 -
根管治療
感染の程度が軽度であり歯の保存が可能な場合に実施できます。
感染した歯の神経や膿を取り除き、根管を清掃・消毒して薬剤を詰める治療です。 -
抗生物質の投与
必要に応じて洗浄や抗生剤の投与を行います。
Intraoral Fistula
内歯瘻
内歯瘻とは?
歯の根(歯根)で起きた炎症や感染が歯の内部を通じて、口の中や鼻の中に膿が排出される状態です。
とくに上顎の奥歯(第四前臼歯や後臼歯)に多く見られます。
内歯瘻の原因
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重度の歯周病
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破折(歯が折れること)
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歯髄炎(歯の神経の炎症)
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歯の根の先での膿瘍形成(歯根膿瘍)
これらが進行すると、歯の根の感染が口腔内や鼻腔に広がり、内歯瘻として現れます。
治療方法
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抜歯
感染した歯を抜くことで炎症の原因を取り除きます。
重度の歯周病や歯根が破壊されている場合に行われます。 -
根管治療
感染の程度が軽度であり歯の保存が可能な場合に実施できます。
感染した歯の神経や膿を取り除き、根管を清掃・消毒して薬剤を詰める治療です。 -
抗生物質の投与
必要に応じて洗浄や抗生剤の投与を行います。