【獣医師が解説】
猫の腎臓病の療法食はいつから始める?
検査数値でわかる切り替えのタイミング

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    猫の腎臓病の療法食はいつから始める?
    検査数値でわかる切り替えのタイミング

猫の慢性腎臓病(CKD)は、高齢の猫において非常に多く見られる病気ですが、一度壊れてしまった腎臓の組織を元に戻すことができません。定義によれば、「片側または両側の腎臓における構造的または機能的異常が3ヶ月以上継続している状態」とされています。

治療の目的は、病気の進行を緩やかにし、愛猫の生活の質(QOL)を保ちながら寿命を延ばすことです。そのためには、早期に発見して、早期から適切な治療と食事管理を行うことが重要です。

定期的な血液検査(Cre、SDMA、FGF23)と尿検査(UPC)を行うことで、早期に異変に気づくことができます。進行状況(ステージ)に合わせた適切な食事療法と内科治療を組み合わせることで、愛猫との大切な時間を長く、穏やかに過ごすことは十分に可能です。

特に読んでもらいたい方:愛猫の健康診断で腎臓の数値の異常を指摘された、腎臓病用の食事への切り替えをいつ行うべきか知りたい飼い主様。

 

【この記事のポイント】

・慢性腎臓病は早期発見が重要であり、一度失われた腎機能は回復しない。

・血液検査(Cre、P、FGF23)と尿検査(UPC)の組み合わせが正確な診断に不可欠である。

・病気の進行度(ステージ)に応じた適切な食事療法(リン制限食)が腎臓の負担を減らす。

・食事の変更タイミングは、個々の猫の検査結果に基づいて慎重に判断する必要がある。

・蛋白尿があれば、療法食を開始してもよい。

 

1. 猫の慢性腎臓病はなぜ起こるのか?

腎臓は、血液中の老廃物をろ過して体外に排出する、体内の水分量や電解質(ミネラル)のバランスを調整する、血圧をコントロールするホルモンや赤血球を作るホルモンを分泌するなど、生命維持に欠かせない多くの働きをしています。

慢性腎臓病(CKD)とは、数ヶ月から数年かけて、腎臓の機能が徐々に低下していく病気です。ネフロンという腎臓の構造が壊れていくことで進行します。残された正常なネフロンが、壊れたネフロンの分まで過剰に働く(代償する)ため、初期段階では症状が表面化しにくいという特徴があります。しかし、この過剰な働きによって、最終的には残ったネフロンまで疲弊させ、さらなる破壊を招くという悪循環に陥ります。

慢性腎臓病の猫の萎縮した腎臓の超音波画像

萎縮した腎臓
慢性腎臓病では、表面がでこぼこになった見た目をしている(萎縮)

原因としては、加齢に伴う変化が最も一般的ですが、過去の急性腎障害(毒物の摂取や感染症など)、尿路結石症、腎盂腎炎などの病気が引き金になることもあります。多くの場合、原因を一つに特定することは困難です。

よくある質問(FAQ)①
Q
慢性腎臓病は治る病気ですか?お薬で元の状態に戻りますか?
A
残念ながら、一度壊れてしまった腎臓の組織が元に戻ることはありません。

慢性腎臓病の治療の目的は「病気を治す」ことではなく、「今残っている腎臓の機能をできるだけ長く持たせ、進行を遅らせること」と「吐き気や脱水などの不快な症状を和らげること」です。早期に発見して適切なケアを行えば、寿命を全うするまで穏やかに過ごせる猫も多くいます。

2. どのような症状がみられたら動物病院に行くべきか?

慢性腎臓病は、初期段階ではほとんど症状が現れないため、自宅で気づくことが非常に難しいと思います。そのため、定期的な健康診断で指摘される以外は、進行した時に症状があって来院することがほとんどです。

飼い主様がご自宅で気づくことができる症状は以下のようなものがあげられます。

  • おしっこが薄くなった
  • おしっこの回数や量が増えた
  • 食欲の低下(または全く食べない)
  • 毛づやが悪くなった
  • 体重の減少(筋肉が落ちて背骨や腰骨が目立つようになった)
  • 嘔吐の回数が増えた
  • 活動性の低下(ずっと寝ている)

これらの症状、特に「おしっこの量が増えた」「色が薄い」と感じた場合は、早めに受診してください。

3. どのような検査をしてステージ分類する?

慢性腎臓病の診断と進行度(ステージ)の分類には、血液検査、尿検査、血圧測定、画像検査(超音波検査)など総合的な評価が必要とされています。

国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)によるガイドラインに沿って、主に以下の項目を確認します。

血液検査:Cre(クレアチニン)、SDMA

Cre(クレアチニン)は、筋肉の代謝産物であり、腎臓の糸球体でろ過されて尿に排出されます。腎機能が低下すると血液中のCreが上昇します。

Creは筋肉量に影響を受けるため、筋肉量が減少している高齢猫では、腎機能が落ちていても数値が上がりにくいという欠点があります。そこで重要になるのがSDMA(対称性ジメチルアルギニン)です。SDMAは筋肉量や年齢の影響を受けにくく、Creよりも早期に腎機能の低下を検出できるマーカーです。

IRISのステージ分類では、Creを主体としつつ、補助的にSDMAを使用します。

IRIS CKDステージ 猫の血中Cre (mg/dL) 猫の血中SDMA (µg/dL)
ステージ 1 < 1.6 < 18
ステージ 2 1.6 〜 2.8 18 〜 25
ステージ 3 2.9 〜 5.0 26 〜 38
ステージ 4 > 5.0 > 38

よくある質問(FAQ)②
Q
SDMAという検査はクレアチニンと何が違うのですか?
A
クレアチニンは筋肉量によって数値が変動しやすいですが、SDMAは筋肉量の影響を受けにくいという特徴があります。

そのため、痩せて筋肉が落ちてしまった高齢猫でも、SDMAを用いれば腎臓の機能低下を正確に、そしてより早期に発見することが可能になります。

尿検査:UPC(尿蛋白/クレアチニン比)

血液検査で異常が出る前の「ステージ1」を発見するためには、尿検査が絶対に欠かせません。尿にタンパク質が漏れ出している状態(蛋白尿)は、腎臓のダメージを示しており、CKDの進行や生存予後の悪化に直結します。

尿試験紙による検査だけでは不十分なことがあり、尿中のタンパク質とクレアチニンの比率を計算する「UPC」の測定が重要です。

UPC判定 猫のUPC値
蛋白尿なし < 0.2
境界域蛋白尿 0.2 〜 0.4
蛋白尿あり > 0.4

よくある質問(FAQ)③
Q
なぜ尿検査が必要なのですか?血液検査だけではダメですか?
A
血液検査に異常が出る前の「初期の腎臓のダメージ」は、尿にしか現れないためです。

当院でも、猫ちゃんの定期健診では必ず血液検査と尿検査をセットで行っています。

骨ミネラル代謝異常と新しいマーカー「FGF23」

腎臓の機能が低下すると、食事から摂取した「リン」を尿中にうまく排出できなくなり、体内に蓄積し始めます。血液中のリンが高くなると、腎臓のさらなるダメージや寿命の短縮につながってしまいます。

リンの排泄異常を早期に検出するマーカーとして、FGF23(線維芽細胞増殖因子23)があります。

体内にリンが蓄積し始めると、骨からこのホルモンが分泌され、腎臓にリンを排泄するように促します。つまり、血液中のリンの数値がまだ「正常範囲内」であっても、FGF23が高ければ、すでに体の中ではリンの蓄積(骨ミネラル代謝異常)が始まっているサインといえます。

4. 猫の慢性腎臓病にはどのような治療方法があるか?

慢性腎臓病の治療は、ステージや個々の症状に合わせて組み合わせます。

  1. 食事療法(最も重要):リンの制限や蛋白質の調整を行った腎臓病用療法食への切り替えです。過去の研究により、療法食を与えられた猫は、そうでない猫に比べて生存期間が大幅に延長することが報告されています (Elliott et al., 2000)。
  2. 薬物療法:腎臓を保護する薬、血圧を下げる薬、リン吸着剤(食事中のリンが体内に吸収されるのを防ぐ薬)などを投与します。
  3. 輸液療法(点滴):脱水を改善し、体内の老廃物を薄めて排出を促すために、皮下点滴や静脈点滴を行います。
  4. 対症療法:吐き気止めや食欲増進剤などでQOLを維持します。
よくある質問(FAQ)④
Q
FGF23とはどのような項目ですか?
A
体内の「隠れリン蓄積」を見つけ出すための早期マーカーです。

血液中のリンの数値が上昇する前に、FGF23の数値が上昇します。これにより、いつからリン制限食(療法食)を始めるべきか、現在の治療が十分効いているかを正確に判断できるようになります。

5. 自宅で気をつけることと具体的な食事変更のタイミングは?

自宅でできる最大のケアは、「適切なタイミングでの食事の変更」と「いつでも新鮮な水をたっぷり飲める環境を作ること」です。

慢性腎臓病では、腎臓の機能が低下する(尿を濃縮できなくなる)ことによって、大量の薄い尿を排泄します。このため水分が余分に失われ、身体は脱水状態になりやすくなっています。ご自宅では自由に水を飲める環境を整えてあげることが重要で、水飲み場は複数箇所に、清潔な水や流れる水を用意することも猫ちゃんに優しいでしょう。

病院に定期的に通っていただいて皮下点滴をしたり、ご自宅で点滴を実施していただくようお伝えすることもあります。

同時に、フードの変更を提案します。どのメーカーのフードも、腎臓病用の療法食はフードの成分として、リンを軽度に制限した「初期用の腎臓病食」と、リンをしっかり制限した「中期〜後期用の腎臓病食」の2種類が用意されています。2種類の使い分けは、獣医師の判断によります。

慢性腎臓病の猫用の初期、中期〜後期用の療法食

←初期用 中期〜後期用→
当院で処方している2種類の療法食(ピュリナHPより引用)

食事変更のタイミングについて

健康診断などで腎臓の数値が少し高めに出たからといって、すぐに厳格な腎臓病用療法食に変えるのが正解とは限りません。蛋白質を過度に制限すると、筋肉量の低下を招き、かえって体を弱らせてしまうことがあるからです。

IRISのガイドラインをもとに、Creによるステージング、リンやFGF23の数値、尿検査(UPC)などを総合的に考慮して、療法食を開始します。

結論から言えば、3ヶ月以上持続する腎性の蛋白尿があれば、食事の変更が適用となります。早期に慢性腎臓病を発見した段階で、まずは「初期用の腎臓病食」を開始します。蛋白尿がない場合、Creによる分類でステージ2であれば食事の変更はすぐには必須ではありませんが、いずれ必要となるため「初期用の腎臓病食」を開始しても問題ありません。

血液検査でリンが基準値でもFGF23が400pg/mLを超えていれば、リンを軽度に制限した「初期用の腎臓病食」を適用します。リンが高値であれば、Creの数値に応じて「中期〜後期用の腎臓病食」を選択します。

よくある質問(FAQ)⑤
Q
腎臓病用の療法食はいつから始めればいいですか?
A
尿にタンパク質が漏れ出している(蛋白尿)、またはFGF23が高値を示しているタイミングが開始の目安です。

早期から過度な制限を行うと筋力低下などを招く恐れがあるため、「早期用(リンの制限がマイルドなもの)」と「後期用(リンをしっかり制限したもの)」を状態に合わせて使い分けます。

6. 引用文献

  • Elliott J, Rawlings JM, Markwell PJ, Barber PJ. Survival of cats with naturally occurring chronic renal failure: effect of dietary management. J Small Anim Pract. 2000; 41(6): 235-42.

この記事を執筆した先生は・・・

けいこくの森動物病院 獣医師 田口 仁

田口獣医師の写真1
田口獣医師の写真2
2匹のトイプードルと一緒に暮らしています

経歴

2022.9 けいこくの森動物病院 研修生として勤務
2026.3 東京大学 獣医病理学研究室 卒
2026.4 けいこくの森動物病院 獣医師として勤務

けいこくの森動物病院では、わんちゃんねこちゃんの一般診療はもちろん、歯科診療にも力を入れています。
東京都世田谷区、等々力、玉川、上野毛、尾山台、自由が丘、田園調布で愛犬・愛猫の体調にお困りの方はご相談ください。

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