2026/08/20
犬の脾臓腫瘤は、健康診断や手術前の腹部超音波検査で、元気や食欲に問題がない状態でも偶然見つかることがあります。脾臓に「できもの」が見つかったからといって、すべてが血管肉腫などの悪性腫瘍というわけではありません。一方で、脾臓は血液が豊富な臓器であるため、腫瘤が破裂すると腹腔内で大量出血を起こし、突然ぐったりする、歯ぐきが白くなる、倒れるなどの緊急事態につながることがあります。
大切なのは、「脾臓に腫瘤があるか」だけでなく、破裂や出血の有無、腫瘤の大きさや変化、他の臓器への広がりなどを画像検査で評価することです。無症状の段階で病変を把握できれば、緊急事態になる前に追加検査、経過観察、手術などについて検討する機会が得られます。
特に読んでもらいたい方:健康診断で「脾臓にできものがあります」と言われた、愛犬がシニア期に入り画像検査を含めた健康診断を検討している、脾臓腫瘤の良性・悪性や予後について知りたい飼い主様。
【この記事のポイント】
・犬の脾臓腫瘤には、良性病変と悪性腫瘍の両方があります。
・無症状で偶然見つかった非破裂性病変では、良性病変が多いことが報告されています。
・一方、腫瘤が破裂して腹腔内出血を起こしている場合は、悪性腫瘍の割合が高くなります。
・超音波画像だけで良性・悪性を確定することはできません。
・脾臓病変は無症状のこともあるため、血液検査だけでなく画像検査を含めた健康診断が、異常を発見する機会になります。
目次
1. 犬の脾臓腫瘤では何が起きているのか?
「脾臓腫瘤」は一つの病名ではなく、脾臓の中に通常とは異なる塊状の病変があることを示す言葉です。
脾臓はお腹の中にある臓器で、血液の貯蔵、古くなった血球の処理、免疫機能などに関与しています。血液が豊富に流れている臓器であるため、脾臓にできた病変の種類によっては、その内部に血液を多く含むことがあります。
脾臓に認められる病変には、結節性過形成や血腫などの非腫瘍性病変、良性腫瘍、血管肉腫をはじめとする悪性腫瘍などがあります。
特に注意が必要なのが血管肉腫です。血管肉腫は血管を構成する細胞に由来する悪性腫瘍で、脾臓は代表的な発生部位の一つです。腫瘍が破裂して出血したり、他の臓器へ転移したりすることがあります。
特に、症状がなく偶然発見された非破裂性の病変では、良性であるケースも少なくありません。発見された時の状況や画像検査、必要に応じた病理組織検査などを組み合わせて判断します。
2. 脾臓腫瘤には良性と悪性の両方がある
脾臓腫瘤が良性か悪性かの確率は、「どのような状態で見つかったか」によって大きく変わります。
無症状の犬で偶然発見され、破裂していない脾臓結節・腫瘤について調べた105頭の研究では、74頭、70.5%が良性病変で、29.5%が悪性病変でした(Cleveland, 2016)。
また、脾臓摘出を行った182頭を対象にした研究では全体の57.7%が良性病変で、血管肉腫は32.4%でした。さらに、偶発的に脾臓病変が発見されて脾臓摘出を行った33頭では、93.9%が良性病変でした(Ziogaite, 2024)。ただし、この数字は「脾臓摘出を受けた犬」という特定の集団のデータであり、すべての犬にそのまま当てはまるわけではありません。
一方で、脾臓腫瘤がすでに破裂し、腹腔内出血を起こしている犬では悪性腫瘍の割合が高くなります。
2025年に報告された345頭の前向き研究では、破裂した脾臓腫瘤のうち35.7%が良性、64.3%が悪性で、血管肉腫は全体の56.2%でした(Ruffoni, 2025)。
| 発見された状況 | 良性の割合 | ポイント |
|---|---|---|
| 無症状・非破裂で偶然発見 | 70.5% | 良性病変も多い |
| 破裂して腹腔内出血あり | 35.7% | 悪性腫瘍の割合が高くなる |
以前は「脾臓腫瘤の3分の2が悪性」と説明されることもありました。しかし、実際には症例の選択条件によって良性・悪性の割合が大きく異なります。そのため「脾臓に腫瘤がある」という事実だけで、良性か悪性かを決めつけることはできません。
3. どのような症状があれば動物病院を受診すべきか?
脾臓腫瘤の難しいところは、腫瘤があっても、破裂するまではほとんど症状がみられないことがある点です。
腫瘤が大きくなった場合や出血を起こした場合には、以下のような変化がみられることがあります。
- 元気がなくなる
- 食欲が低下する
- 散歩に行きたがらない
- ふらつく
- お腹が張って見える
- 呼吸が速くなる
- 歯ぐきや舌の色が白っぽくなる
- 突然倒れる、立てなくなる
この症状があれば、早急に動物病院を受診してください
「突然ぐったりした」「立てない」「歯ぐきが白い」「呼吸が速い」といった症状がある場合、脾臓腫瘤からの腹腔内出血によって循環状態が悪化している可能性があります。
この場合は自宅で様子を見ず、速やかに動物病院を受診してください。
元気や食欲だけでは、体の中に脾臓病変があるかどうかを判断できません。年齢や健康状態に応じて、画像検査を含めた健康診断を検討することが重要です。
4. 動物病院では脾臓腫瘤をどのように検査する?
脾臓腫瘤が見つかった場合は、一つの検査だけで判断するのではなく、超音波検査、血液検査、必要に応じた転移評価や病理検査などを組み合わせます。
腹部超音波検査
当院では、脾臓の評価に腹部超音波検査を行っています。
超音波検査では、脾臓の大きさ、腫瘤の大きさや形、数、内部構造、周囲臓器の状態、腹腔内に液体がたまっていないかなどを確認します。
超音波画像だけを見て「良性」「悪性」と確定することはできませんが、経験的に見当はつきます。もちろん、血腫などの良性病変と血管肉腫が似た画像所見を示すこともあります。

実際の脾臓腫瘤の超音波画像
中央上半分に見える黒い背景の大きな塊が脾臓に発生した腫瘤です。
中央下半分に見える果実の断面のような塊は胃です。
血液検査
血液検査では、貧血の有無、血小板数、肝臓や腎臓など全身の状態を評価します。脾臓腫瘤から出血している場合には、貧血が認められることがあります。
また、手術を検討する場合には、麻酔や手術を行ううえで全身状態に問題がないか確認する意味もあります。
一方で、血液検査が正常であっても脾臓腫瘤を否定することはできません。
細胞診
病変によっては、細い針を刺して細胞を採取する「細胞診」が検討されることがあります。
犬の脾臓病変78例を調べた研究では、細胞診による腫瘍診断の感度は64.3%、特異度は95.5%でした(Tecilla, 2019)。
感度とは「実際に腫瘍がある犬を、検査で腫瘍と判定できる割合」です。そのため、細胞診で腫瘍細胞が確認できなかったとしても、それだけで悪性腫瘍を完全に否定することはできません。
転移の有無を調べる検査
悪性腫瘍が疑われる場合には、胸部や腹部の画像検査などを行い、他の臓器に転移を疑う病変がないか確認します。
特に血管肉腫では、肝臓、肺、心臓などを含めた他部位への広がりを評価することが、治療方針や予後を考えるうえで重要です。
超音波検査は、腫瘤の大きさや形、腹腔内出血の有無などを把握するために重要です。最終的な診断には、脾臓摘出後の病理組織検査が必要になる場合があります。
5. 脾臓腫瘤が見つかった場合の治療方法
脾臓腫瘤が見つかった犬すべてで、直ちに脾臓摘出が必要になるわけではありません。病変の大きさ、形、増大傾向、出血の有無、犬の年齢や全身状態などを総合的に評価します。
当院では、検査結果に応じて経過観察または脾臓摘出を検討します。
経過観察
小さな病変が偶発的に発見され、腹腔内出血がなく、その他の検査所見などを総合して直ちに手術を行わないと判断した場合には、超音波検査による経過観察を行うことがあります。
ここでいう「経過観察」は何もしないことではありません。同じ病変の大きさ、形、内部構造などを定期的に比較し、変化がないか確認することが重要です。
脾臓摘出
腫瘤が増大している、出血している、悪性腫瘍が疑われる、確定診断が必要などの場合には、脾臓摘出を検討します。
摘出した脾臓は病理組織検査に提出し、腫瘤の正体を顕微鏡で詳しく調べます。
犬は脾臓を摘出した後も生活できますが、脾臓摘出は全身麻酔を必要とする腹部手術です。特に大量出血を起こしている場合には全身状態が不安定なこともあるため、手術前の評価が重要です。

実際の診療フロー
超音波画像で経験的に良性か悪性かの見当がつくので、経過観察でよいのか、摘出を検討するべきかをご相談します。
ただし脾臓摘出は全身麻酔を伴う手術であり、年齢や基礎疾患、出血の程度などによってリスクは異なります。手術を行うメリットとリスクを個別に検討します。
6. 血管肉腫だった場合の転移と予後
病理組織検査で血管肉腫と診断された場合、転移しやすい悪性腫瘍であるため、脾臓摘出だけで治療が終了するとは限りません。
血管肉腫では、腫瘍が脾臓に限局しているのか、破裂しているのか、リンパ節や他臓器への転移があるのかなどによってステージを評価します。
| ステージ | 一般的な考え方 |
|---|---|
| Stage I | 腫瘍が脾臓に限局している状態 |
| Stage II | 腫瘍の破裂や局所的な広がりなどを伴う状態 |
| Stage III | 遠隔転移を認める状態 |
血管肉腫の予後は、ステージや転移の有無、治療内容によって変わります。
脾臓血管肉腫208頭を調べた研究では、脾臓摘出のみを行った犬の生存期間中央値は1.6か月で、臨床ステージが重要な予後因子でした(Wendelburg, 2015)。
ただし、この数字は「脾臓に腫瘤が見つかった犬全体の余命」ではありません。病理組織検査で血管肉腫と診断された犬を対象としたデータです。良性病変の場合には、この予後データは当てはまりません。
血管肉腫と診断された場合には、病変の広がりや全身状態に応じて、脾臓摘出後の抗がん剤治療などについて検討します。
そのため、血管肉腫が疑われる場合や病理組織検査で診断された場合には、胸部や腹部などの画像検査を行い、転移を疑う病変がないか確認することがあります。
7. なぜ画像検査を含めた健康診断が重要なのか?
脾臓腫瘤は、血液検査だけでは発見できないことがあります。
実際に、元気や食欲に問題がなく、血液検査でも大きな異常がない犬に腹部超音波検査を行った結果、偶然脾臓の腫瘤性病変が見つかることがあります。
当院からお伝えしたいこと
当院でも、歯科処置を予定している犬の手術前検査として超音波検査を行った際に、脾臓の腫瘤性病変が偶然見つかることがあります。
飼い主様からすると、「歯の治療をする予定だったのに、なぜ脾臓の病気が見つかったの?」と驚かれることもあると思います。
しかし、脾臓病変には自宅で気付ける症状がほとんどないものがあります。血液検査だけでは確認できない異常を見つけるために、年齢や健康状態に合わせて画像検査を健康診断に組み合わせることには意味があります。
ただし、「超音波検査を行えば脾臓腫瘤による死亡を必ず減らせる」「何歳以上なら必ず年1回受けるべき」といった明確な基準が確立しているわけではありません。
画像検査の最大の利点は、症状のない段階で体の中の異常を発見し、その後の検査や治療について検討する機会を得られることです。
脾臓腫瘤のように血液検査だけでは見つからない病変もあります。すべての犬に同じ検査が必要というわけではありませんが、シニア期や麻酔・手術前などには、愛犬の状態に合わせて腹部超音波検査を組み合わせるか獣医師と相談するとよいでしょう。
8. 自宅で気をつけること
現時点では、特定の食事やサプリメントによって犬の脾臓腫瘤の発生を確実に予防する方法は確立されていません。
そのため、ご自宅では普段から愛犬の状態を観察し、次のような変化がないか確認してください。
- 元気や食欲
- 散歩時の活動性
- 歯ぐきの色
- 呼吸の速さ
- ふらつきの有無
- お腹の張り
特に、突然の虚脱、歯ぐきの蒼白、呼吸が速いといった変化があれば、腹腔内出血の可能性があるため早急に受診してください。
一方で、症状のない脾臓腫瘤を自宅で発見することは困難です。年齢や健康状態に合わせて、かかりつけの動物病院で定期的な健康診断について相談しましょう。
まとめ|脾臓腫瘤は「見つかった時の状態」が重要です
犬の脾臓腫瘤には、良性病変から血管肉腫などの悪性腫瘍までさまざまな病変が含まれます。脾臓に腫瘤があるからといって、必ずしも悪性腫瘍というわけではありません。
一方で、腫瘤が破裂すると腹腔内出血を起こし、突然の虚脱など生命に関わる状態になることがあります。
当院でも、歯科処置前などに行った腹部超音波検査から、症状のなかった脾臓腫瘤が偶然見つかることがあります。
血液検査だけでは発見できない異常があるため、愛犬の年齢や健康状態に応じて、超音波検査などの画像検査を健康診断に組み合わせることも大切です。
脾臓腫瘤が見つかった場合には、「良性か悪性か」だけを心配するのではなく、現在出血していないか、病変が変化していないか、転移が疑われないかなどを一つずつ評価し、その犬に合った治療方針を考えていきます。
9. 引用文献
- Cleveland MJ, Casale S. Incidence of malignancy and outcomes for dogs undergoing splenectomy for incidentally detected nonruptured splenic nodules or masses: 105 cases (2009-2013). J Am Vet Med Assoc. 2016;248(11):1267-1273.
- Ziogaite B, Contreras ET, Horgan JE. Incidence of splenic malignancy and hemangiosarcoma in dogs undergoing splenectomy surgery at a surgical specialty clinic: 182 cases (2017-2021). PLoS One. 2024;19(12):e0314737.
- Ruffoni E, Stewart S, Khanna C, et al. A prospective observational study of 345 canines with ruptured splenic tumors suggests benign lesions are more common than previously reported. J Am Vet Med Assoc. 2025;263(8):985-990.
- Schick AR, Grimes JA. Evaluation of the validity of the double two-thirds rule for diagnosing hemangiosarcoma in dogs with nontraumatic hemoperitoneum due to a ruptured splenic mass: a systematic review. J Am Vet Med Assoc. 2023;261(1):69-73.
- Tecilla M, Gambini M, Forlani A, Caniatti M, Ghisleni G, Roccabianca P. Evaluation of cytological diagnostic accuracy for canine splenic neoplasms: An investigation in 78 cases using STARD guidelines. PLoS One. 2019;14(11):e0224945.
- Wendelburg KM, Price LL, Burgess KE, Lyons JA, Lew FH, Berg J. Survival time of dogs with splenic hemangiosarcoma treated by splenectomy with or without adjuvant chemotherapy: 208 cases (2001-2012). J Am Vet Med Assoc. 2015;247(4):393-403.
この記事を執筆した先生は・・・
けいこくの森動物病院 獣医師 田口 仁
経歴
| 2022.9 | けいこくの森動物病院 研修生として勤務 |
| 2026.3 | 東京大学 獣医病理学研究室 卒 |
| 2026.4 | けいこくの森動物病院 獣医師として勤務 |
けいこくの森動物病院では、わんちゃんねこちゃんの一般診療はもちろん、歯科診療にも力を入れています。
東京都世田谷区、等々力、玉川、上野毛、尾山台、自由が丘、田園調布で愛犬・愛猫の体調にお困りの方はご相談ください。
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