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「麻酔なしで安心」の落とし穴!
無麻酔歯石除去で愛犬がトラウマになる前に

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    無麻酔歯石除去で愛犬がトラウマになる前に

 

専門的な立場から申し上げると、無麻酔での歯石除去は推奨することはできません。なぜなら、見た目の汚れは落ちても、歯周病の根本原因である「歯周ポケットの中の細菌」を取り除けないばかりか、処置中の恐怖によるトラウマ、顎の骨折、誤嚥性肺炎といった重大な事故につながる危険性があるからです。

それどころか、無麻酔の歯石除去を続けていた結果、実は歯肉の内側の見えないところで歯周病が進行していて、顎の骨が溶けてしまって歯がぐらぐらしてきたという症例も当院でよく遭遇しています。その場合、抜歯するしか治療方法がありません。

食べることが楽しみのわんちゃんたちにとって、将来多くの歯を残すため、正しい知識を身につけませんか。

本記事では、無麻酔歯石除去の具体的なリスク、歯周病を放置する恐ろしさ、そして安全な治療のために全身麻酔がなぜ必要不可欠なのかを、獣医学的に詳しく解説します。

特に読んでもらいたい方:愛犬・愛猫の口臭や歯石が気になっている方、無麻酔での歯石取りを検討している方、高齢で全身麻酔に不安を感じている飼い主様。

 

1. 無麻酔歯石除去ってどんな処置?

無麻酔歯石除去とは、全身麻酔を行わずに、動物を人の手で押さえた状態(保定)で、歯科器具を使って歯の表面に付着した歯石を削り落とす行為です。

使われる器具は施設によって異なり、ハンドスケーラーや超音波スケーラーで行うことが一般的のようですが、SNSではペンチのような器具で歯石を無理やり剥がすような動画も散見されます。

麻酔をかけないため、「体に負担がかからない」「手軽で費用が安い」というイメージを持たれがちですが、実際に行われているのは、外側から見える部分についた「汚れを取る」処置に留まります。しかしながら、歯周病菌が潜むのは外側から見えない歯周ポケットの部分です。無麻酔では痛みや怖さが伴うため歯周ポケットにアプローチすることはどれほど動物が忍耐強くても困難です。

麻酔下での歯石除去を毎年行うのは動物にとって負担だとして、「つなぎ」で無麻酔での歯石除去を活用することを進めることもあるようですが、そもそも歯石除去しなければならないような見た目の時点で、歯周ポケットの中では歯肉炎が進行しています。海外の研究でも、1年に1回の麻酔下での歯科クリーニングによって犬の死亡リスクは18.3%低下することがわかっています。

麻酔下でのクリーニングを先延ばしにすることによってむしろ歯周病を助長してしまっているのです。

無麻酔歯石除去の処置で押さえつけられた犬が不安に感じている様子

動物の気持ちになってみましょう。
押さえつけられながら金属の器具を口の中に入れられて、わんちゃんたちは恐怖を感じています。

犬や猫は人間のように「口を大きく開けてじっとしている」ことはできません。

言葉でコミュニケーションをとることができないため、そもそも処置中は強い力で動物の体や頭を無理やり固定することになります。この行為自体が、動物にとって大きな肉体的・精神的ストレスとなっています。

よくある質問(FAQ)①
Q
トリミングサロンでの歯石取りと動物病院での処置の違いは何ですか?
A
スケーラーなどの器具を用いた歯石除去(医療行為)は獣医師しかできません。(農林水産省)

その上で、動物病院で行う歯科処置は、全身麻酔下で歯冠部の歯石除去だけでなく、歯根の評価と歯周ポケット内部の清掃を行い、見えない部分までアプローチする「歯周病の根本治療」です。一部の施設で行われる無麻酔の歯石除去は、「歯肉より上の汚れを落とす」ことが目的で、歯周病の治療にはなりません。

2. 無麻酔での歯石除去が抱える4つの重大な危険性

無麻酔での歯石除去が獣医師や専門学会から推奨されない理由は、動物の健康を脅かす複数の大きなリスクが存在するためです。主なものは以下の4つがあげられます。

1. 歯周ポケットの清掃ができず、根本的な治療にならない

歯周病の原因は、目に見える歯の表面の汚れではなく、歯と歯肉の隙間である「歯周ポケット」に潜む歯石と細菌です。一般的に6歳以上のわんちゃんは100%歯周病に罹患していて歯肉炎がありますが、歯肉炎の状態の歯周ポケットの内部は非常に敏感なため、器具が触れると痛みを伴います。適切な鎮痛のもと麻酔をかけずにはこの部分にアプローチすることはできません。

そもそも、ヒトの歯科ではマイクロスコープ(手術用顕微鏡)が普及し始めており、肉眼で処置するのとではクリーニングの精度が全く異なります。当院でもマイクロスコープを導入していますが、このような処置は動物を不動化しなければ処置が困難です。精度の高いクリーニングは、肉眼で見えない歯石や歯周ポケットの奥の歯垢歯石の取り残しを防ぎ、処置時間の短縮(歯面を削ってしまう時間を短縮)につながります。

当院で使用しているマイクロスコープ

当院でもマイクロスコープを使用した精度の高い処置を行っている

2. 歯の表面に傷がつき、かえって歯石がつきやすくなる

動物が動くリスクがある中、ハンドスケーラーや超音波スケーラーという金属の器具で処置をしなければならないため、誤って歯肉を刺してしまったり、無駄に歯面を傷つけてしまう可能性が高いです。

また、スケーラーで歯石を削り落とすとき、どうしても歯の表面のエナメル質に細かな傷がついてしまいます。そのままでは歯石がつきやすい状態のため、必ず「ポリッシング(表面研磨)」を行って表面をツルツルに仕上げる必要があります。ポリッシングは複数の種類のペースト(歯磨き粉)を使いますが、ブラシで研磨したり水しぶきで洗い流したりする作業で、無麻酔では十分なポリッシングも困難です。

不十分な歯石除去(歯周ポケットにアプローチできない+歯石を取りこぼす)に加え、不十分なポリッシングになってしまうため、効果的な処置とは言えません。

3. 誤嚥性肺炎や顎の骨折などの重大な医療事故

削り取られた歯石や唾液はいわば細菌の塊ですが、これらが誤って気管から肺に流れ込み、「誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)」を引き起こすリスクがあります。超音波スケーラーは水しぶきと一緒に歯石を除去していきますが、動物に意識が残っており、嚥下をコントロールさせることはできないため、誤嚥する可能性はより一層高まります。また、歯周病でもろくなった顎の骨に無理な力がかかり、下顎骨骨折を起こす事故の可能性もあります。

4. 精神的・身体的なトラウマを植え付ける

動物と人間は言葉でコミュニケーションをとることはできないため、動物にとってはいきなり見知らぬ人に強い力で押さえつけられ、口の中に金属の器具を入れられて痛い思いをすることは、動物にとっては恐怖です。このトラウマによって、その後の自宅での歯磨きができなくなってしまうどころか、最悪の場合、飼い主と動物の信頼関係が崩れてしまう可能性も考えられます。

3. 歯肉縁下の歯石や歯肉炎(歯周病)をそのまま放置するとどうなってしまうのか

「麻酔が怖い」「無麻酔も危険」となると、何もせずに放置してしまう飼い主様もいらっしゃいますが、歯周病の放置は動物の寿命を縮めかねない非常に危険な選択です。3歳以上の犬や猫の約80%、6歳以上の100%が、何らかの段階の歯周病に罹患しているとされています。

  • 吸収:歯槽骨が溶けて、歯がぐらぐらになっていきます。小型犬の場合、顎の骨が折れてしまうこともあります。
  • 口腔鼻腔瘻(こうくうびくうろう):歯根周囲の骨が溶け、口と鼻の間に穴が開く状態。慢性的な鼻水やくしゃみ、鼻出血が止まらなくなります。
  • 根尖病変:歯根周囲に感染し、膿が溜まった状態。
  • 全身の臓器への悪影響:血流に乗った細菌が全身を巡り、心臓(僧帽弁閉鎖不全症など)、肝臓、腎臓に炎症を引き起こします。

無麻酔歯石除去と歯みがきしかしていなかった症例では歯槽骨が溶けてしまっていた画像

3年前に無麻酔歯石除去をして2日に1回歯みがきを続けていた症例。
歯槽骨は溶けて厚みが無くなり、歯の根っこも溶けて細くなっている。(7歳)

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よくある質問(FAQ)②
Q
歯周病は口臭以外の症状が出にくいと聞きましたが本当ですか?
A
一番わかりやすい症状は口臭です。それ以外にも注意深く観察すればさまざまな症状がみられることがあります。

なんとなく食べづらそう、片側の歯だけでご飯を食べる、ご飯をこぼすようになった、口元をこするような動きをする、ボール遊びや引っ張り合いをしなくなった、よだれが増えた、くしゃみをするようになった、いつも黄色い鼻水が垂れる、などがあります。

4. 全身麻酔下での歯科処置の優位性は?

獣医師が全身麻酔下での処置を推奨するのは、「動物の安全を守り、痛みのないように、確実に病気を治療するため」です。

比較項目 無麻酔での処置 全身麻酔下での処置
痛みのコントロール

できない
(精神的、肉体的痛みを伴う)

できる
(適切な鎮痛)
歯周ポケットの清掃 できない
(歯肉縁より上の歯面のみ)
できる
(歯肉縁より下、歯周ポケットまで)
気道の確保 無防備
(誤嚥のリスク)
気管チューブとガーゼで保護


気管チューブのカフと喉に詰めたガーゼで誤嚥を防いでいる麻酔下での歯科処置の画像

全身麻酔下では喉に詰めたガーゼと気管チューブのカフの2段階で誤嚥を防いでいる。

よくある質問(FAQ)③
Q
10歳を超える高齢犬で麻酔が心配なのですが、無麻酔の方が安全ではないですか?
A
年齢を理由に麻酔をかけられないことはありません。

現在では麻酔技術が進歩していて、年齢を理由に麻酔をかけられないということはありません。手術前の検査で麻酔リスクを評価し、安全な麻酔計画を立てることができます。当院の実績では、12歳以上の症例は全体の約15%、15歳以上が4%を占めています。これまでの最高齢は犬は20歳6ヶ月、猫は23歳でした。2025年度の最高齢は19歳3ヶ月でした。
よくある質問(FAQ)④
Q
全身麻酔の前にはどのような検査を行うのでしょうか?
A
全ての症例で血液検査、胸部レントゲン検査、心臓の超音波検査を実施します。高齢(8歳以上)の場合、腹部の超音波検査も追加で実施します。

心筋症や弁膜症などの持病で麻酔のリスクが高い場合、麻酔科の専門医の麻酔管理のもと、歯科処置を実施しています。

5. 愛犬・愛猫のお口の健康を守るための正しい選択

歯石除去の本来の目的は、「歯を白くする」ことではなく、「歯周病を治療し、お口と全身の健康を守ること」が本当の目的です。

無麻酔での歯石除去は外側から見える部分の汚れを取り除くことに留まるため、歯周病の根本的な解決にならないばかりか、動物に恐怖を与え、事故を引き起こすリスクもはらんでいます。

安易に無麻酔処置を選ぶ前に、まずは歯科に強みをもった動物病院にご相談いただき、いま本当に必要な治療は何かを一緒に考えていきましょう。

よくある質問(FAQ)⑤
Q
処置後、自宅でできるデンタルケアにはどのようなものがありますか?
A
最も効果が高いのは「犬猫用の歯ブラシを使ったブラッシング」です。

いきなり歯ブラシを口の中にいれるのではなく、最初は口の周りを触る練習から始め、少しずつステップアップしていきます。難しい場合は、デンタルジェルや専用のガムなどを組み合わせて無理のない範囲で継続することが大切です。

この記事を執筆した先生は・・・

けいこくの森動物病院 獣医師 田口 仁

田口獣医師の写真1
田口獣医師の写真2
2匹のトイプードルと一緒に暮らしています

経歴

2022.9 けいこくの森動物病院 研修生として勤務
2026.3 東京大学 獣医病理学研究室 卒
2026.4 けいこくの森動物病院 獣医師として勤務

けいこくの森動物病院では、わんちゃんねこちゃんの一般診療はもちろん、歯科診療にも力を入れています。
東京都世田谷区、等々力、玉川、上野毛、尾山台、自由が丘、田園調布で愛犬・愛猫の体調にお困りの方はご相談ください。

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