2026/06/21
日常診療においてわんちゃんの「治らない痒み」や「慢性的な軟便」は意外と多く、その隠れた原因として「食物アレルギー」に遭遇する頻度は高いです。ただし、目の周りや足の裏の赤み(ピンク色に腫れぼったい様子)は真っ先に食物アレルギーを疑うことができますが、実際には、足先を気にして舐める程度だったり、耳や目をかく、こするといった分かりにくい症状しかないこともあります。
それ以外の皮膚疾患を除外した上で食物アレルギーを強く疑うことができる場合、特別に作られた療法食に変更して症状の変化を確認する除去食試験によって診断を確定していきます。本記事では獣医師の視点から、食物アレルギーの症状の見極め方や、正しい除去食試験の進め方、そして正しいフードの選び方を解説します。
特に読んでもらいたい方:愛犬が一年中体を痒がっている、目の周りや足先に赤みがある、または慢性的な軟便や下痢を繰り返していることに悩む飼い主様。
目次
1. 犬の食物アレルギーは体の中で何が起きている状態なのか?
犬の食物アレルギーは、本来であれば体に害のないはずの食べ物に対して、愛犬の免疫システムが過剰に反応してしまう病気です。
通常、食事中のタンパク質は胃や腸で小さな分子(アミノ酸)に分解され吸収されます。しかし、食物アレルギーを持つ犬では、特定のタンパク質が十分に分解されないまま腸の粘膜を通過した際、免疫細胞がこれを「外敵」と誤って認識してしまいます。

外敵とみなされたタンパク質(アレルゲン)に対して、体は「IgE抗体」と呼ばれる武器を作り出します。次に同じアレルゲンが体内に入ってくると、皮膚や消化管に存在する「肥満細胞」から、ヒスタミンなどの強い炎症を引き起こす化学物質が一気に放出されます。これが皮膚の神経を刺激して「激しい痒み」を生じ、腸管を刺激して「下痢や嘔吐」を引き起こします。
食物アレルギーは今まで長期間(数ヶ月〜数年)食べ続けてきた食材に対して、ある日突然免疫が過剰反応を起こすことで発症します。昨日まで食べていて平気だったフードが、今日の痒みの原因になることは珍しいことではありません。
2. 犬の食物アレルギーを引き起こす主な原因食材は何か?
多くの飼い主様は「穀物(小麦やトウモロコシ)がアレルギーになりやすい」というイメージをお持ちかもしれませんが、犬の食物アレルギーの原因となるのは、圧倒的に「動物性タンパク質」です。以下の表は皮膚トラブルを伴う食物アレルギーをもつ犬297頭のアレルゲンを調査した結果です(Mueller et al., 2016)。
| 原因となる食材 | 全体に占める割合(%) |
|---|---|
| 牛肉(ビーフ) | 34% |
| 乳製品 | 17% |
| 鶏肉(チキン) | 15% |
| 小麦 | 13% |
| 大豆 | 6% |
このように、牛肉、乳製品、鶏肉の上位3つだけで、全体の約3分の2を占めています。ただし、豚肉はアレルゲンになりにくい(2%)と報告されています。その他にはトウモロコシ、卵、魚、米、大麦、インゲン豆、トマトなどがごく稀にアレルギーの原因となるようです。
前述の通り、犬の食物アレルギーの主な原因は牛肉や鶏肉などの「動物性タンパク質」です。小麦などの穀物が原因になる割合は小さいため、グレインフリーのフードであってもチキンやビーフに対する食物アレルギーを発症することは十分に考えられます。
3. 自宅で飼い主様が気付ける食物アレルギーの症状は何か?
食物アレルギーの大きな特徴の一つは「季節に関係なく一年中症状が続くこと」です。主に以下のような「皮膚症状」と「消化器症状」が見られます。
1. 特徴的な皮膚症状(痒みと赤み)
特定の部位を非常に激しく痒がる傾向があります。以下の部位をしきりに舐める、噛む、引っ掻く動作が見られたら要注意です。
- 足の先(指の間や裏): 肉球の間が赤く(ピンク色)、よく舐めている。
- 目の周り:目の周りが赤く(ピンク色)やや腫れている。手でこするような動作をする。
- 耳の中(外耳炎): 耳の穴が赤く腫れ、黒褐色の耳垢が溜まり、酸っぱい悪臭がする。頭を振る。
- 肛門の周囲: 肛門の周りが赤く、床にお尻を擦り付ける行動(シッティング)をする。
- 内股や脇の下: 毛の薄い部分に強い赤みや発疹(ブツブツ)が出ている。

←目の周り・顔の赤み 肉球の間の赤み→
いずれもアレルギーでよくみられる症状
2. 消化器症状(軟便・下痢・嘔吐)
皮膚の痒みと同時に、胃腸の症状を伴うことが多いのも食物アレルギーの特徴です。約20〜30%の犬が慢性的な消化器症状を併発していると報告されています(Verlinden, 2006)。1日の排便回数が多い(4〜5回以上)、便の表面にゼリー状の粘液が付く、時々黄色い胃液を吐く、などの症状は重要です。
4. 動物病院では食物アレルギーに対してどのような検査と治療を行うのか?
動物病院で食物アレルギーを診断・治療するプロセスは、実は飼い主様の想像以上に時間と根気が必要です。
最も確実な検査「除去食試験」
多くの飼い主様は血液検査を希望されますが、食物アレルギーに関しては、血液検査(IgE抗体検査など)は精度が低く偽陽性(身体はアレルゲンとして認識していないのに陽性の結果)が出やすいです。現在の獣医学では食物アレルギーの唯一の確定診断方法は「除去食試験」であると定められています。
除去食試験とは、これまで愛犬が一度も食べたことのないタンパク質(新奇タンパク質)、あるいは免疫細胞が反応できないほど極小サイズに分解されたタンパク質(加水分解タンパク質)のみで作られた「特別療法食」だけを一定期間与え、痒みが消えるかを確認するテストです。

当院で処方している療法食(加水分解タンパク質、ピュリナHPより引用)
この製品は主に動物性タンパク質に対する食物アレルギーに対応している。
最低でも8週間(約2ヶ月)は厳格に療法食のみを与え続ける必要があります(Olivry et al., 2015)。この間に家族の誰かがおやつを1口でも与えてしまうと、アレルギー反応が再燃し、その日からまた8週間のカウントをゼロからやり直さなければなりません。
痒みが完全に消えた後、以前のフードやおやつを与えてみて、再び痒みが出ることを確認する「負荷試験」を行って初めて、食物アレルギーという診断が確定します。ただし、わざわざかゆみを起こして確認する必要はなく、そのまま療法食に変更して続けていく方が理にかなっています。
前述のように偽陽性が多いためです。それよりも、早期に食事療法を試してみる方が動物にとってよいですし、当院でも多くの場合で療法食によって症状が改善していきます。アレルゲンではない物質を明確に知りたいという場合は実施してもよいですが、症状の改善を優先するのが通常です。
5. 食物アレルギーの犬に対して自宅でできるケアやフード選びのポイントは?
食物アレルギーの管理は、動物病院での治療以上に「ご自宅での日々のケア」が成功の鍵を握ります。根本治療は「原因となるアレルゲンを一生涯避けること」しかありません。
1. 家族全員の協力による「徹底した食事管理」
- おやつの禁止: 動物性タンパク質(ジャーキーなど)を避けて、おいもや野菜ボーロにしてください。普段食べている療法食の粒を手から与えるだけでもわんちゃんにとってはおやつになります(うれしいです)し、アレルギーに配慮された専用トリーツでもよいでしょう。
- 薬の飲ませ方に注意: 味がついているフィラリア予防薬(牛肉風味など)には動物性タンパク質が含まれていることがあります。必ず獣医師に相談していただき、成分を確認するか、スポットタイプへの変更を検討します。
市販のアレルギー対応食は、別のフードと同じ機械で作られていることがあり、微量のアレルゲンが混入するリスクがあります。また、動物病院の療法食には、免疫細胞がアレルゲンとして認識できないレベルまでタンパク質を極小サイズに分解した「加水分解タンパク食」という特殊な技術で作られたものがあり、確実性が非常に高いです。
除去食試験やアレルギー管理中は、一粒の盗み食いでも影響します。別の部屋にするか、それぞれをケージに入れてドアを閉めてからフードを与えてください。また、アレルギーのない同居犬にも一時的に同じ療法食を食べてもらう(健康上の問題がない場合)というのも、誤食を防ぐ有効な手段です。
2. スキンケア(保湿)による皮膚バリアの強化
アレルギーを起こしている皮膚は、表面のバリア機能が壊れて水分が蒸発し、乾燥しています。乾燥した皮膚は外部からの刺激に弱く、痒みを増幅させます。犬用の保湿剤(セラミド成分配合など)を地肌に直接塗布してあげることで、皮膚を保護することは重要です。

BASICS DermCare モイスチャライズフォーム(QIX社HPより引用)
低刺激の保湿剤で、当院でも積極的に処方している。フラーレンやセラミドなどの成分を配合し、肌に優しい。
6. 獣医師からのまとめ:愛犬の痒みや消化器症状に悩む飼い主様へ
犬の食物アレルギーは、感染性の皮膚疾患を除外した上ではじめて診断することができ、アレルゲンの特定と適切なフードを見つけるまで、ひと苦労する疾患です。慢性的な経過をたどるうちに皮膚のバリアが弱くなり、細菌感染によって膿皮症を伴う場合、背景にあった食物アレルギーが隠されてしまって正確な診断・治療が難しくなることもあります。
「8週間、決められたフードと水しか与えてはいけない」という除去食試験はおやつをあげるコミュニケーションが制限されるため、飼い主様にとっても精神的な負担も大きいですが、厳格な食事管理によって適切なフードを見つけることができれば、これまでの愛犬のかゆみは改善されます。薬は必要なくなる可能性が高く、健康的な皮膚と安定した胃腸を取り戻すことができるでしょう。
季節に関係なくかゆみ・赤みがあり、軟便やうんちの回数が多いなどの消化器症状を伴う場合、食物アレルギーが強く疑われます。本記事で解説したような特徴的な症状でお悩みの場合、動物病院を受診し、獣医師の指導のもとで正しい診断・治療を始めてください。
7. 引用文献
- Mueller RS et al. Critically appraised topic on adverse food reactions of companion animals (2): common food allergen sources in dogs and cats. BMC Veterinary Research 2016;12:9.
- Verlinden A et al. Food allergy in dogs and cats: a review. Critical Reviews in Food Science and Nutrition 2006;46(3):259-73.
- Olivry T et al. Critically appraised topic on adverse food reactions of companion animals (1): duration of elimination diets. BMC Veterinary Research 2015;11:225.
この記事を執筆した先生は・・・
けいこくの森動物病院 獣医師 田口 仁
経歴
| 2022.9 | けいこくの森動物病院 研修生として勤務 |
| 2026.3 | 東京大学 獣医病理学研究室 卒 |
| 2026.4 | けいこくの森動物病院 獣医師として勤務 |
けいこくの森動物病院では、わんちゃんねこちゃんの一般診療はもちろん、歯科診療にも力を入れています。
東京都世田谷区、等々力、玉川、上野毛、尾山台、自由が丘、田園調布で愛犬・愛猫の体調にお困りの方はご相談ください。
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