2026/06/12
わんちゃんの目の下が赤茶色に染まるいわゆる「涙やけ」に悩んでいませんか?
「涙やけは生まれつきの体質だから仕方ない」と思われることも多く、確かにその通りの一面があります。涙やけは目から涙が溢れた結果起こりますが、その原因(病気なのか?)を正しく理解し、日常のケアによって涙やけをコントロールすることで、愛犬のQOLを上げてあげることができます。
特に対象とする読者:愛犬の涙やけが気になり、自宅でのケア方法や動物病院へ行くべきなのか悩んでいる飼い主様。
目次
1. そもそも涙やけとはどのような状態を指すか?
目の下の被毛が濡れて変色している状態を、一般的に「涙やけ」と呼びます。これは「流涙症(りゅうるいしょう)」によって起こります。
「流涙症」とは目から涙が異常にあふれ出ている病態を指し、「涙やけ」とはあふれた涙によって被毛が赤茶色に染まった状態を指します。

筆者の愛犬(お手入れ前のこりあんだーくん)
この子は拭いても拭いても追いつかない…
本来、健康な犬の涙は、目の表面を潤した後、目頭にある涙点(るいてん)という小さな穴から吸い込まれ、鼻涙管(びるいかん)という細い管を通って鼻腔へと抜けていきます。
人間も泣いた時は一緒に鼻水が出てきますね。なぜなら、涙が鼻に流れて鼻水として出てくるからです。それと一緒です。しかし、この一連の排出ルートのどこかに異常が生じると、行き場を失った涙が顔の外(目の下)へとあふれ出てくることになります(人間の場合は涙の産生量が多すぎて泣いた時は鼻水で処理しきれず、普通はあふれてきます)。

正常な涙の排出ルート
あふれ出した涙にはポルフィリンという物質が含まれています。ポルフィリンは、鉄分を含む赤血球が分解される際に作られる物質で、涙や唾液、尿などとともに体外へ排出されています。
被毛に付着したポルフィリンが太陽の光(紫外線)や空気中の酸素に触れることで酸化し、赤茶色や黒っぽい色に変色します。これが「涙やけ」の正体です。
涙に含まれるポルフィリンという成分が日光や空気に触れて酸化すると赤茶色になるからです。
2. そもそもなぜ犬は流涙症を発症するのか?
流涙症の原因は、大きく分けて「涙が多すぎるパターン(涙液過剰型)」と「涙が流れないパターン(排出障害型)」の2つに分類されます。
① 涙が多すぎる(涙液過剰型)
目に何らかの刺激や炎症が加わることで、目を守ろうとして涙腺から過剰に涙が分泌され続ける状態です。
- アレルギー性結膜炎: 花粉やハウスダスト、食物アレルギーなどが原因で目に炎症が起きます。犬のアトピー性皮膚炎に伴うことも多く(Lourenco et al., 2011)、結膜炎とそれに伴う流涙症(涙の過剰分泌)は非常に一般的な症状として報告されています(Delgado et al., 2023)。
- 逆さまつげ・異物: まつ毛が目の表面(角膜)に向かって生えていたり(眼瞼内反症)、ゴミや抜け毛が目に入り続けたりすることで、物理的な刺激が涙の過剰分泌を引き起こします。
② 涙が流れない(排出障害型)
涙の分泌量は正常であるにもかかわらず、排出するための「排水溝」や「排水管」が詰まったり狭くなったりしているタイプです。
- 顔の構造的な問題: 特にシーズー、パグ、フレンチブルドッグなどの短頭種は顔の構造上、鼻涙管が狭窄していたり蛇行していて、涙が鼻涙管を流れにくいと言われています。トイプードルなどの小型犬も、鼻涙管が細いことで、涙が鼻涙管を流れにくくなっていることがあります。
- 鼻涙管の閉塞: 過去の重度のウイルス感染症による後遺症や、非常に稀なケースですが、異所性(本来とは違う場所に生えた)の歯が鼻腔内で鼻涙管を圧迫し、流涙症を引き起こしていたという報告もあります(Voelter-Ratson et al., 2015)。
鼻が短いため、目から鼻へと抜ける「鼻涙管」が極端に曲がっていたり狭かったりします。また、目が大きく突出しているため目にゴミがつきやすく炎症も起こりやすいと考えられます。
3. 涙やけの子は病院に行った方がいいの?
単に「目の下が赤茶色い」というだけでなく、以下のような行動や外見の変化が見られたら、背景に眼科疾患を伴っている可能性があり、一度来院されることをおすすめします。
- 目が開きづらそう
- 頻繁にまばたきをしている、またはショボショボしている
- 前足でしきりに目をこする
- 黄色い目やにが多い
- まぶたが全体に腫れている
- 涙やけで濡れた部分の皮膚が炎症を起こしている
このような症状で来院された場合、涙嚢炎(涙が鼻に流れる通り道の一部の炎症)や眼瞼炎、眼瞼内反症(いわゆる逆さまつげ)、麦粒腫(ものもらい)などを疑い、眼科検査を行います。
市販のクリーナーでは、すでに染まってしまった被毛の汚れを落とす、または雑菌の繁殖を抑えるための表面的なケアをすることはできます。しかしながら涙が過剰に出る原因(逆さまつげや炎症など)や、排出できない原因(管の詰まり)を解決するものではありません。
4. 動物病院ではどのような検査を行うか?
動物病院では、流涙症の原因が「分泌が多すぎるのか」、それとも「排出できていないのか」を見極めるために、以下のような専門的な眼科検査を行います。
① シルマー試験(涙液量検査)
目盛りのついた専用の試験紙を下まぶたの裏に1分間挟み、涙がどれだけ分泌されているかを測定します。正常値を超える場合は、何らかの刺激によって涙が過剰分泌されていることを意味します。
② フルオレセイン染色試験
蛍光緑色の特殊な色素を含んだ目薬を点眼し、暗室で特殊な光を当てて角膜に傷がないかを確認します。さらに重要なのが、この緑色の目薬が数分後に「鼻の穴から出てくるか」を確認することです。もし鼻から出てこない場合は、鼻涙管がどこかで閉塞している(詰まっている)証拠となります。
③ スリットランプ検査
眼科用の特殊な顕微鏡を用いて、肉眼では見えない逆さまつげや異所性睫毛(まぶたの裏から生えている異常な毛)、眼瞼内反がないかを拡大して詳細に観察します。
あふれた涙によって目の下の被毛が常に湿った状態になると、皮膚の常在菌であるブドウ球菌やマラセチア(真菌)などが爆発的に増殖します。これらが皮脂や涙の成分を分解する際に、特有の悪臭を放ちます。
5. 流涙症には治療法はあるか?
炎症や細菌感染があった場合は内科治療を、一部の構造異常では外科治療をすることができます。
① 内科的治療(点眼薬・内服薬)
アレルギーや結膜炎が原因の過剰分泌型の場合、ステロイド点眼薬や抗ヒスタミン薬、抗生剤の点眼を用いて炎症を鎮めます。
細菌感染が起きている場合は、適切な抗菌薬を処方します。
② 外科的治療(鼻涙管洗浄・手術)
鼻涙管の詰まりが原因の場合、極細の管を涙点から挿入し、生理食塩水で詰まりを押し流す「鼻涙管洗浄」を行います。
また、眼瞼内反や逆さまつげ、異所性睫毛などは根本的な解決として外科手術を行うことができます。
直径1mmにも満たない涙点(まぶたの縁にあります)に細い管を挿入するため動物を不動化しなければ処置はできません。
6. 日常でできるケアは何か?
構造的な問題があった時に、外科的な処置を行なったとしても、実際には時間が経つと繰り返すことが多いです。また、おそらくですが、涙やけの子は何らかのかゆみも感じているでしょう。
そのため、最も重要なのは「目の下を常に清潔で乾燥した状態に保つこと」です。
あふれ出た涙は、毎日1回でよいので、拭き取りましょう。この時、乾いたティッシュでゴシゴシこすると皮膚や目を傷つけることがあります。
まず、少し湿らせたコットン(メイク用のコットンなど)や市販の動物用のアイケアシートで優しく拭き取るようにしてください。次に、乾いたコットンで押さえるようにして水分を吸い取るとgoodです。
そして被毛が長い犬種(つまり短頭種以外のトイプードルなど)で効果的なのが、定期的なトリミングと、いわゆる顔バリです。

筆者の愛犬(るりちゃん)
←5ヶ月 4歳→
この子は比較的軽度で、顔バリによって毎日のケアは不要なまでコントロールできている。
目の周囲と口周りを合わせてバリカンで刈ってあげることで、被毛が目を刺激することも予防しつつ、涙やけによる汚れの蓄積がなく毎日のケアも簡単になり、涙やけによる細菌の繁殖を防ぐことができます。
もし涙やけの原因が「食物アレルギーによる結膜炎」であれば、フードの変更は効果をもたらす可能性があります。しかし、原因がそれ以外の解剖学的な問題などの場合、改善することはないでしょう。まずは病院で原因を特定することが大切です。
7. まとめ:愛犬の目の健康を守るためにできること
愛犬の涙やけ(流涙症)は、もちろん、構造上の問題(いわゆる体質)から起こっていることが多いです。
しかしながら、ただ見た目が汚れるだけではなく、背景に重要な疾患が隠れていることがあります。
まずは、その子の涙やけの原因は何かを知ることが大切です。そして、日常のケアで、目の病気を防ぐこと、周囲の皮膚の健康を保つこと、何よりわんちゃんのQOLを維持してあげることができます。
ご心配でしたら当院やお近くの病院までご相談ください。
8. 引用文献
-
Lourenco-Martins AM et al. Allergic conjunctivitis and conjunctival provocation tests in atopic dogs. Vet Ophthalmol. 2011;14:248-56.
- Delgado E et al. Diagnostic approach and grading scheme for canine allergic conjunctivitis. BMC Vet Res. 2023;19:35.
- Voelter-Ratson K et al. Dacryocystitis following a nasolacrimal duct obstruction caused by an ectopic intranasal tooth in a dog. Vet Ophthalmol. 2015;18(5):427-32.
この記事を執筆した先生は・・・
けいこくの森動物病院 獣医師 田口 仁
経歴
| 2022.9 | けいこくの森動物病院 研修生として勤務 |
| 2026.3 | 東京大学 獣医病理学研究室 卒 |
| 2026.4 | けいこくの森動物病院 獣医師として勤務 |
けいこくの森動物病院では、わんちゃんねこちゃんの一般診療はもちろん、眼科や歯科診療にも力を入れています。
東京都世田谷区、等々力、玉川、上野毛、尾山台、自由が丘、田園調布で愛犬・愛猫の体調にお困りの方はご相談ください。
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