2024/10/07
犬・猫の脾臓にできるしこり(腫瘤)には、良性の変化と悪性腫瘍の両方があり、超音波画像の見た目だけで確定することはできません。 特に注意したいのは、腫瘤が破裂してお腹の中へ出血することです。急にぐったりする、呼吸が速い、歯ぐきが白い、立てない、お腹が張るといった症状は、命に関わる腹腔内出血のサインになり得るため、すぐに動物病院へ連絡してください。無症状で見つかった場合は、全例を同じように扱うのではなく、超音波検査での大きさや変化、出血の有無、全身状態などを確認し、定期検査と脾臓摘出のどちらが適切かを個別に判断します。
特に読んでもらいたい方:愛犬・愛猫の健康診断で脾臓のしこりを指摘された方、脾臓摘出を勧められて迷っている方、突然の元気消失や白い歯ぐきが心配な方。
【この記事のポイント】
・脾臓腫瘤が破裂すると腹腔内で大量出血し、緊急処置や手術が必要になることがあります。
・破裂した腫瘤にも良性と悪性があり、「破裂=がん」とは限りません。
・通常の超音波検査だけで良性・悪性を確定することは困難です。
・未破裂で無症状なら、定期的な超音波検査と摘出の利点・リスクを個別に比較します。
・犬と猫では原因の傾向が異なるため、犬の研究結果をそのまま猫に当てはめることはできません。
目次
1. 脾臓にしこりができると何が問題になる?
脾臓の腫瘤で大きな問題となるのは、悪性腫瘍の可能性と、良性・悪性を問わず破裂して出血する可能性です。 脾臓は血液を多く含む臓器なので、腫瘤が破裂すると腹腔内出血(お腹の中への出血)を起こし、急速に状態が悪化することがあります。
脾臓は、古くなった赤血球の処理、血液の貯留、免疫反応などに関わる臓器です。脾臓の腫瘤は、健康診断や別の目的で行った腹部超音波検査で偶然見つかることもあれば、破裂後の急な体調不良をきっかけに見つかることもあります。
犬の未破裂・偶発性腫瘤を摘出した105頭の後ろ向き研究では、70.5%が良性病変、29.5%が悪性腫瘍でした。ただし、これは「無症状で未破裂」「最終的に摘出された犬」に限った結果であり、すべての脾臓腫瘤にそのまま当てはまる数字ではありません(Cleveland, 2016)。
2. 破裂を疑う危険な症状
急にぐったりする、呼吸が荒い、歯ぐきが白い、立てない・倒れるという症状があれば、様子を見ずに緊急受診してください。 一度落ち着いたように見えても、腹腔内で出血が続いたり、出血と一時的な止血を繰り返したりすることがあります。
今すぐ動物病院へ連絡したい症状
- 突然ぐったりして、呼びかけへの反応が弱い
- 呼吸が速い、息が苦しそう
- 歯ぐきが白い、舌の色が薄い
- 立てない、ふらつく、倒れる
- お腹が急に張った、触ると痛がる
- 脾臓腫瘤を指摘されており、急に元気・食欲が落ちた
これらは出血による貧血や循環不全のサインになり得ます。歩かせず、可能なら事前に電話をしてから受診してください。
| 状態 | 受診の目安 | 行動 |
|---|---|---|
| ぐったり、速い呼吸、白い歯ぐき、ふらつき・失神 | 緊急 | すぐに動物病院へ連絡し受診 |
| 元気や食欲の低下、お腹の張り、断続的な体調不良 | 当日中を目安 | 特に腫瘤を指摘されている場合は早めに相談 |
| 無症状で健診時に発見 | 計画的に相談 | 決められた再検査日を守り、治療方針を検討 |
3. 良性と悪性はどう違う?
脾臓のしこりには、結節性過形成や血腫などの非腫瘍性・良性病変と、血管肉腫などの悪性腫瘍があります。 見つかった時点で「がん」と決めつけることも、「小さいから良性」と判断することもできません。
犬の破裂した脾臓腫瘤による腹腔内出血を集めた2022年の系統的レビューでは、1,150頭中73.0%が悪性、27.0%が良性でした。ただし、含まれた研究の多くは後ろ向き研究で、エビデンスの質は低く、偏りも大きいと評価されています(Schick, 2022)。その後に公表された345頭の前向きデータでは、良性病変が35.7%、悪性腫瘍が64.3%で、血管肉腫は全体の56.2%でした(Ruffoni, 2025)。
つまり、犬では破裂した腫瘤の悪性リスクは高いものの、良性病変も少なくありません。病理組織検査の結果が出る前に、破裂だけを理由として良性・悪性を断定しないことが大切です。
猫は犬と同じ割合ではありません。英国の紹介病院で脾臓摘出を受けた猫62頭の研究では、81%に脾臓の腫瘍性病変が認められました。腹腔内出血を伴った15頭はすべて腫瘍性病変でしたが、手術対象となった紹介症例に限られるため、一般の猫すべての確率を示す数字ではありません(Rossanese, 2023)。
当院からお伝えしたいこと
以前当院で摘出した脾臓腫瘤には、病理組織検査で腫瘍ではないと確認された症例がありました。また、4〜5cmほどの腫瘤が破裂していたものの、同じく腫瘍ではなかった症例もありました。
良性でも破裂することはあり、破裂の有無だけでは診断名は決まりません。一方で、良性だから破裂しても安全という意味でもありません。
4. 動物病院では何を調べる?
当院では腹部超音波検査を行い、脾臓の形、大きさ、病変の数や変化、腹腔内出血の有無などを確認します。 ただし、通常の超音波検査だけで良性・悪性を確定することはできません。
犬37頭を対象にした研究では、通常のBモード超音波で評価した病変の明るさや内部構造などに、良性・悪性との有意な関連は認められませんでした(Maronezi, 2022)。超音波検査は、病変を見つけ、経時的な変化や出血を確認し、次の判断につなげるために重要ですが、「画像だけで病名を決める検査」ではありません。
全身状態や手術適応を判断する際には、一般に血球計算による貧血・血小板の確認、血液化学検査、凝固検査、胸部画像検査、心臓や肝臓などの評価が症例に応じて検討されます。最終診断には、摘出した脾臓の病理組織検査が重要です。ここに挙げた検査をすべての症例に行うわけではなく、必要な検査は状態によって異なります。
超音波検査で確認された脾臓の病変


赤い楕円内が脾臓の病変

症例によって見え方は異なる

画像所見だけでは確定診断できない
院内症例画像。赤い囲みは病変部を見やすく示すためのものです。
5. 経過観察と脾臓摘出はどう選ぶ?
「何cmなら必ず手術」という一律の基準はありません。破裂・出血の有無、病変の増大、全身状態、転移を疑う所見、麻酔リスクなどを総合して決めます。 小さくても出血する可能性があり、大きさだけで安全性や良性・悪性を判断することはできません。
| 選択肢 | 検討しやすい状況 | 注意点 |
|---|---|---|
| 定期的な超音波検査 | 未破裂で全身状態が安定し、病変の変化を追うことが妥当と判断された場合 | 再検査の間にも増大・破裂する可能性はゼロではない。変化があれば方針を見直す |
| 脾臓摘出 | 破裂・出血がある、増大している、悪性や破裂リスクが懸念される、確定診断が必要な場合など | 麻酔、出血、不整脈、血栓などの周術期リスクがある。病理組織検査で診断を確認する |
当院では、症例に応じて定期的な超音波検査でサイズや見え方の変化を確認し、必要と判断した場合には脾臓摘出をご提案します。経過観察は「何もしないこと」ではなく、再検査の時期と、予定より早く受診すべき症状を決めておく管理方法です。腹腔内出血が疑われる緊急時は、定期検査を待つ状況ではありません。
犬539頭の後ろ向き研究では、脾臓腫瘤に対する摘出手術の周術期死亡率は7.6%でした。術前の強い貧血や血小板減少、術中の心室性不整脈などがリスクと関連しており、手術リスクは病変だけでなく来院時の全身状態にも左右されます(Wendelburg, 2014)。この数値は過去の紹介症例集団の平均であり、個々の犬・猫のリスクをそのまま表すものではありません。
摘出した脾臓に認められた腫瘤性病変

赤い楕円内が腫瘤性病変です。最終診断には病理組織検査が必要です。
6. 脾臓を取っても生活できる?
多くの犬・猫は、脾臓を摘出した後も日常生活を送ることができます。 脾臓の機能の一部は肝臓、骨髄、リンパ組織などが担います。ただし、「脾臓がなくても全く影響がない」という意味ではなく、手術前後の出血、不整脈、血栓、貧血などへの管理が必要です。
摘出後の見通しを大きく左右するのは、脾臓を取ったことそのものより、腫瘤の病理診断、破裂や転移の有無、手術時の全身状態、併存疾患です。良性病変を完全に摘出できれば手術のみで治療が完了することがあります。一方、悪性腫瘍では病理結果に応じて追加検査や抗がん治療などを検討します。
7. 自宅でできることと術後の注意
自宅で腫瘤の破裂を確実に予防する方法はありません。定期検査を守り、体調の変化を早く捉えることが大切です。 人用薬やサプリメントを自己判断で始めると、出血や麻酔に影響する可能性があるため、使用前に獣医師へ確認してください。
- 歯ぐきの色、呼吸の速さ、元気、食欲、ふらつきの有無を普段から確認する
- 再検査日と、急変時に受診する病院・連絡先を家族で共有する
- 術後は傷をなめさせず、指示された期間は走る・跳ぶなどの激しい運動を避ける
- 術後に傷からの出血、腹部の腫れ、呼吸の変化、ぐったり、嘔吐などがあれば早めに連絡する
- 病理結果の説明を受け、追加治療や再診の予定を確認する
8. よくある質問
Q1. 脾臓は取っても大丈夫ですか?
多くの犬・猫は、摘出後も日常生活を送れます。
ただし手術は無リスクではなく、予後は病理診断や破裂・転移の有無、全身状態に左右されます。「取れる臓器だからすぐ手術」ではなく、摘出の利益が手術リスクを上回るかを個別に検討します。
Q2. 「脂肪腫なら良性」と言われました。摘出しなくてもよいですか?
まず、本当に脂肪腫と確定しているかを確認する必要があります。
「脂肪腫」と病理学的に診断されているのか、「脂肪のように見える」という画像上の説明なのかを確認しましょう。画像だけで脂肪腫と断定することはできません。良性と確認できた場合も、増大、出血、症状、手術リスクを踏まえて経過観察か摘出かを決めます。
Q3. 小さい腫瘤なら破裂しませんか?
大きさだけで破裂しないとは判断できません。
サイズは判断材料の一つですが、病変の性質、増大速度、出血の有無なども重要です。小さい病変でも、急な元気消失や白い歯ぐきがあれば緊急受診してください。
Q4. 超音波検査で良性か悪性か分かりますか?
通常の超音波検査だけでは確定できません。
超音波は、病変の位置・数・大きさや腹腔内出血を確認するために有用です。しかし、似た見え方をする良性病変と悪性腫瘍があります。最終診断には病理組織検査が重要です。
Q5. 一度元気になれば、出血は止まったと考えてよいですか?
一時的に症状が軽くなっても、安全とは限りません。
出血量や血圧の変化により、ぐったりしたり少し回復したりを繰り返すことがあります。脾臓腫瘤を指摘されている犬・猫に急な体調変化があった場合は、回復を待たず相談してください。
Q6. 血液検査が正常なら脾臓に問題はありませんか?
血液検査が正常でも、脾臓腫瘤を否定することはできません。
未破裂で全身への影響が少ない段階では、明らかな血液異常が出ないことがあります。血液検査と画像検査は役割が異なるため、必要に応じて組み合わせて評価します。
9. まとめ|破裂のサインを見逃さず、平常時に方針を相談しましょう
脾臓腫瘤には良性と悪性があり、超音波画像の見た目だけでは確定できません。未破裂で偶然見つかった場合には、定期的な超音波検査と脾臓摘出のどちらが適切かを、病変の変化と全身状態を踏まえて検討します。
最も大切なのは、破裂すると腹腔内出血によって命に関わることがあるという点です。急なぐったり、速い呼吸、白い歯ぐき、ふらつき・失神は緊急サインです。
脾臓のしこりを指摘されたら、再検査の時期、手術を検討する条件、急変時の連絡先を確認しておきましょう。犬と猫、病変の種類、年齢や持病によって判断は変わるため、かかりつけの獣医師と相談してください。
10. 引用文献
- Ruffoni E, Stewart S, Khanna C, Thomson C, Tougas G, Fenger J, et al. A prospective observational study of 345 canines with ruptured splenic tumors suggests benign lesions are more common than previously reported. J Am Vet Med Assoc. 2025;263(8):985-990. doi:10.2460/javma.25.01.0044. PMID:40334697.
- Schick AR, Grimes JA. Evaluation of the validity of the double two-thirds rule for diagnosing hemangiosarcoma in dogs with nontraumatic hemoperitoneum due to a ruptured splenic mass: a systematic review. J Am Vet Med Assoc. 2022;261(1):69-73. doi:10.2460/javma.22.08.0389. PMID:36322487.
- Rossanese M, Williams H, de la Puerta B, Scott P, Chanoit G, Guillén A. Prevalence of malignancy and factors affecting outcome of cats undergoing splenectomy. J Am Vet Med Assoc. 2023;261(11):1646-1652. doi:10.2460/javma.23.05.0258. PMID:37582488.
- Maronezi MCM, Carneiro RK, da Cruz ICK, de Oliveira APL, De Nardi AB, Pavan L, et al. Accuracy of B-mode ultrasound and ARFI elastography in predicting malignancy of canine splenic lesions. Sci Rep. 2022;12(1):4252. doi:10.1038/s41598-022-08317-7. PMID:35277580.
- Cleveland MJ, Casale S. Incidence of malignancy and outcomes for dogs undergoing splenectomy for incidentally detected nonruptured splenic nodules or masses: 105 cases (2009-2013). J Am Vet Med Assoc. 2016;248(11):1267-1273. doi:10.2460/javma.248.11.1267. PMID:27172343.
- Wendelburg KM, O’Toole TE, McCobb E, Price LL, Lyons JA, Berg J. Risk factors for perioperative death in dogs undergoing splenectomy for splenic masses: 539 cases (2001-2012). J Am Vet Med Assoc. 2014;245(12):1382-1390. doi:10.2460/javma.245.12.1382. PMID:25459483.
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