【獣医師監修】メス犬の「おりもの」や「臭い」は要注意!?
子宮蓄膿症の初期症状に気づいて手遅れを防ぐには

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犬の子宮蓄膿症は、発見が遅れると命を落とすこともある、危険性が高い病気です。避妊手術によって確実に予防することができる病気でもあります。一方で、繁殖のためやその他の事情から未避妊で愛犬を飼われている飼い主様もいらっしゃいます。本記事では獣医師が犬の子宮蓄膿症について、ご自宅で気づける初期のサイン(多飲多尿、発熱など)から、病気が起こるメカニズム、手術の必要性や術後のケアまでを解説します。

特に対象とする読者:避妊手術をしていない中高齢のメス犬の飼い主様、愛犬が「最近水をたくさん飲む」「食欲がなく元気がない」と不安に感じている飼い主様

 

1. 犬の子宮蓄膿症はどのような病気?放置するとどうなる?

犬の子宮蓄膿症(ちくのうしょう)は、その名の通り、メス犬の子宮の中に大量の膿(うみ)が溜まってしまう病気です。避妊手術(卵巣および子宮の摘出)を行っていないメス犬にとって、最も警戒すべき命に関わる生殖器疾患の一つです。

正常な状態の犬の子宮は、非常に細く、ボールペンの芯や細いストローほどの太さ(直径数mm程度)しかありません。しかし、子宮蓄膿症を発症して内部に膿がパンパンに溜まると、人間の腕の太さほどにまで異常に膨れ上がることがあります。この内部に溜まった膿は、大量の細菌(主に大腸菌など)とその死骸、そして戦った白血球の塊です。臨床上、体重5kg程度の小型犬の子宮の中に、300ml以上の悪臭を放つ膿が溜まり、お腹の中を占拠していたケースも当院で経験しています。

この病気の真の恐ろしさは、単に子宮が腫れるだけではない点にあります。放置すると、溜まった膿の中で増殖した大腸菌などの細菌からエンドトキシンと呼ばれる毒素が発生します。この毒素が血流に乗って全身の臓器に回ることで、「敗血症(細菌や毒素が全身を巡り致命的な状態になること)」や「多臓器不全(複数の臓器が同時に機能しなくなること)」を引き起こします。さらに進行すれば、限界まで膨らんだ子宮が風船のように破裂し、お腹の中に大量の膿が散らばる「急性腹膜炎」を併発して、短時間で死に至ります。



子宮内で細菌が繁殖し、産生した毒素が血流に乗って循環、体調の悪化によって嘔吐などの症状を引き起こす。
よくある質問(FAQ)①

Q: 犬の子宮蓄膿症は自然に治る病気ですか?

A: 子宮の中に大量の膿が溜まってしまった状態から、様子を見ているだけで自然治癒することは絶対にありません。細菌の増殖スピードはすさまじく、様子を見ている時間は愛犬の命を削っている時間と同義です。疑わしい症状があれば、夜間であっても一刻も早く救急病院を受診すべきです。

2. なぜ犬は子宮蓄膿症になるのか?その根本的な原因と発症しやすい時期について

なぜ犬は子宮蓄膿症になりやすいのでしょうか。その理由は、犬という動物が持つ独特の生理周期(ホルモンの変化)と細菌感染によるものです(Smith et al., 2006)。

メス犬の発情出血(ヒート)が終わった後、約2ヶ月間は発情休止期と呼ばれる期間に入ります。ヒトの女性のサイクルとは異なり、犬は妊娠していなくても、この約2ヶ月間、体内ではプロゲステロン(黄体ホルモン)という妊娠を維持するためのホルモンが大量に分泌され続けます。この長期にわたるプロゲステロンの分泌が、病気の引き金になります。

プロゲステロンは、以下の3つの変化を子宮にもたらします。

  • 子宮内膜の増殖: 受精卵が着床しやすいように、子宮内膜が分厚くなり、分泌液をたくさん出します。
  • 子宮の収縮を止める: 妊娠した胎児を外に押し出さないよう、子宮の筋肉の収縮を抑制するとともに、子宮頸管(子宮の入口)を硬く閉ざします。
  • 局所の免疫力低下: 精子という異物を白血球が攻撃してしまわないよう、子宮内部の免疫力を意図的に低下させます。

発情期には子宮の入り口が開いているため、このタイミングで犬自身の陰部や腸内(便)に常在している大腸菌などの細菌が子宮内に侵入することがあります。その直後に発情休止期が訪れると、子宮は「分泌液(栄養)が豊富で、入り口が閉ざされた密室で、しかも免疫力がない」という、細菌にとって天国のような培養器に変わってしまいます。ここで細菌が爆発的に増殖し、子宮蓄膿症が完成するのです。

年齢を重ね、発情期を何度も繰り返すことで子宮内膜へのダメージは蓄積され、細菌が感染しやすい環境がより整っていきます。疫学調査によると、避妊手術をしていないメス犬の19%(5頭に1頭)が、10歳までにこの子宮蓄膿症を発症すると報告されています(Jitpean et al., 2012)。発症のピークは7〜10歳の中高齢ですが、ホルモンバランスが崩れやすい若い犬(1〜3歳)で発症することもあります。

よくある質問(FAQ)②

Q: これまで一度も出産させたことがない高齢犬ですが、今からでも発症するリスクはありますか?

A: リスクがあります。交尾や出産の経験の有無は、子宮蓄膿症の発症リスクを低下させません。
むしろ、発情を繰り返しながら一度も妊娠・出産をしていない犬の方が、子宮内膜にホルモンの負担がかかり続け、発症しやすいと言われています。

3. 自宅で気付ける犬の子宮蓄膿症の初期症状は何か?

子宮蓄膿症の初期症状は、単なる胃腸炎や加齢による夏バテ、衰えと似ているため見過ごされがちですが、注意深く観察すると以下のようなサインが見られることがあります。最も重要なヒントは「最後の生理(出血)から1〜2ヶ月後である」ということです。この時期に以下の症状が出たら、真っ先に子宮蓄膿症を疑うことができます。

① 多飲多尿

これが最も特徴的で、飼い主様が最初に気づくことができる重要なサインです。異常なほどの量の水をガブガブと飲み、それに伴って色の薄いおしっこを大量にします。「最近、お水のお皿がすぐに空になる」「おしっこの回数が多すぎる」といった変化があります。

これはなぜ起こるのでしょうか。子宮内で増殖した大腸菌がエンドトキシンという毒素を出し、それが血流に乗って腎臓に到達します。腎臓には通常、尿の水分を体内に戻す機能がありますが、毒素がこの働きをブロックしてしまいます。その結果、体内の水分がどんどんおしっこで流れ出てしまい、犬は脱水症状を補うために水を飲み続けるのです。

② 陰部からの排膿

おしっこの後や、犬が座っていたベッドの毛布などに、赤黒い、またはクリーム色のおりもの(膿)が付着することがあります。多くの場合、独特の腐敗臭(生臭い臭い)があります。犬自身が気にして陰部を頻繁に舐めていることもあります。

③ 食欲不振・嘔吐・元気消失

全身に毒素が回る(敗血症になりかける)ことで、大好きなはずのおやつやお肉も食べなくなり、ぐったりと横たわって動かなくなります。また、頻繁に胃液などを嘔吐するようになります。熱が出るため、触ると体が熱く感じることもあります。

④ 腹部膨満

子宮内に大量の膿が溜まることで、外から見てもお腹がパンパンに膨らんで見えることがあります。痛みを伴うため、飼い主様がお腹を触ろうとするのを極端に嫌がって、キャンと鳴いたり、背中を丸めて小刻みに震えながら歩いたりします。

よくある質問(FAQ)③

Q: 水をたくさん飲んでいるのですが、元気や食欲はあります。それでも子宮蓄膿症の可能性はありますか?

A: あります。初期の段階では、「食欲はあるし散歩にも行くけれど、水だけ異常に飲む」という状態が数日続くことがよくあります。この段階で病院を受診し早期発見できれば、命に関わるリスクを下げることができます。多飲多尿は他の内分泌疾患にも特徴的な症状で、いずれにしても気づいた時点で早めに動物病院を受診してください。

4. 子宮蓄膿症を疑った時どのような検査を行う?

獣医師は問診で「未避妊であるか」「最後に生理が来たのはいつか」「水を飲む量は増えていないか」を確認し、子宮蓄膿症の疑いがあれば直ちに検査を実施します。

① 超音波検査(エコー検査)

子宮蓄膿症の確定診断において、最も迅速で確実な検査です。通常、正常な細い子宮はエコー画像にはほとんど映りません。しかし、子宮蓄膿症の場合は、お腹の中に「内部が黒く抜けた(液体が溜まった)管状の構造物」がはっきりと確認できます。



子宮内腔が液体で拡張しています(黒い部分)。
(子宮は体内で曲がっているので、断面によっては管が複数あるように見えます)
よくある質問(FAQ)④

Q: エコー検査は犬にとって痛いですか?麻酔は必要ですか?

A: 痛みはありません。麻酔や鎮静剤も必要なく、負担の少ない検査です。エコー検査はお腹の毛を少しかき分け、ゼリーを塗って超音波を当てますが、必要に応じて毛刈りすることがあります。

② 血液検査

病気の進行度(重症度)や、全身状態を評価し、麻酔がかけられるのかどうかを判断するために不可欠です。

  • 白血球数(WBC): 体内で強烈な細菌感染と戦っているため、白血球数が異常に増加します。正常値が17,000/μL以下のところ、30,000〜50,000/μLに跳ね上がります。
  • CRP(C反応性タンパク): 炎症の程度を示す数値で、子宮蓄膿症では測定上限を振り切れるほど高値になることが一般的です。
  • 腎臓・肝臓の数値(BUN、CRE、ALTなど): 毒素によって急性腎不全や肝不全を起こしていないかを確認します。

5. 犬の子宮蓄膿症にはどのような病態の違いがあるか?

子宮蓄膿症は2つの病態に分かれ、危険度もやや異なります。その違いは、子宮頸管(子宮の入口)が開いているか、閉じているかの違いです。

タイプ 症状と特徴 危険度と緊急性
開放型 子宮頸管が少し開いており、陰部から排膿が可能。おしっこに血が混じったり、床が膿で汚れたりするため、飼い主様が視覚的に異変に気づきやすいです。 中〜高
排膿があるため、子宮が破裂するリスクは相対的に低いですが、放置すれば確実に敗血症へ移行します。
閉鎖型 子宮頸管が閉ざされ、排膿されない。飼い主様が病気に気づきにくく、発見が遅れると致命的です。 極めて高(超緊急)
行き場を失った大量の膿で子宮が膨らみ、毒素の吸収も早いため、急速に全身状態が悪化します。

6. 犬の子宮蓄膿症の治療方法は?

子宮蓄膿症の確実な治療は外科的治療(避妊手術)です。

子宮卵巣全摘出術

全身麻酔下で膿が溜まった子宮と、性ホルモンを出して病気の原因となっている卵巣を摘出する手術です。

術式は通常の避妊手術と同じですが、すでに全身状態が悪化している犬に麻酔をかけるため、通常の手術よりもリスクが高くなります。重症例では術後の腹膜炎のリスクが上がることが報告されています(Jitpean S et al., 2014)。そのため、手術前に強力な静脈点滴と抗生剤の投与を行い、脱水とショック状態を可能な限り改善してから手術に臨みます。

当院では迅速に組織および血管を切開、剥離、止血できる最新のシーリングデバイス(超音波&高周波メス)等を用いて、安全かつ素早い手術を心がけています。



貯留液は乳白色の膿であった。
よくある質問(FAQ)⑤

Q: 高齢で麻酔が怖いので、できれば薬(注射)だけで治すことは可能ですか?

A: お勧めしません(治りません)。数日かけて治療する間に合併症のため命を落とすリスクがあるのに加え、発情期のたびに高い確率(約60〜70%)で再発するため、子宮卵巣を摘出することが獣医学的なスタンダードです。手術を先送りにして状態が悪化すると、本当に麻酔に耐えられなくなる恐れがあります。
よくある質問(FAQ)⑥

Q: 手術や入院の費用はいくらくらいかかりますか?

A: 犬の体重、重症度によって変動します。
術前の血液検査、超音波検査、麻酔管理、外科手術、数日間の入院費、抗生剤などの点滴を含めると、総額で30万円程度になることが一般的です。状態が悪く夜間救急での緊急手術となれば、さらに費用が加算される場合もあります。

7. 手術後の愛犬に対して自宅でできるケア、術後合併症を防ぐために

無事に手術を乗り越え、退院した後の自宅でのケアも重要です。

  • エリザベスカラーや術後服の確実な着用: お腹の傷口(縫合糸)を犬が舐めたり噛みちぎったりしないよう、抜糸が終わるまでの約10日間〜2週間は必ずカラーや専用の服を着用させてください。傷口から感染(皮膚や口腔内の常在菌が侵入)することで傷口の治りが悪くなります。
  • 処方された薬(抗生剤)を最後まで飲み切る: 手術で子宮を取り出しても、すでに血液中に回ってしまった細菌を完全に死滅させるため、退院後も抗生剤の内服が数日間必要です。飼い主様の判断で薬を中断すると、生き残った細菌が耐性菌となり、再び敗血症を起こす危険があります。必ず獣医師の指示通りに飲み切ってください。
  • 食欲と飲水量のモニタリング: 術後数日は食欲が本調子ではないことがありますが、少しずつ消化の良いフードを与えてください。また、術前に見られた「多飲多尿」が徐々に落ち着いて、正常な飲水量に戻ってきているかを確認することも、ダメージを受けた腎臓が回復しているかどうかの重要な指標になります。

8. 犬の子宮蓄膿症は予防できる?避妊手術の本当のメリット

子宮蓄膿症の予防法は、若くて健康なうちに避妊手術しておくことです。

また、初回または2回目の発情前の避妊手術は、乳腺腫瘍(乳がん)の発生率を92〜99.5%低下させます(Schneider et al., 1969)。

「自然のままにしたい」「健康な体にメスを入れるのは抵抗がある」「太りやすくなるらしい」という飼い主様のお気持ちはわかりますが、発情期のストレス、交尾できないストレスから解放してあげた上で、愛犬の病気のリスクも下げてあげられます。

9. まとめ:愛犬の命を守るために飼い主様ができることは何か?

獣医学的には避妊手術をすることが推奨されますが、実際には様々な事情から、避妊手術を希望されない飼い主様もいらっしゃいます。

子宮蓄膿症は愛犬の命を突然奪う可能性もあり、緊急性の高い病気です。避妊手術をしていないメス犬を飼われている飼い主様は、常にこの病気のリスクと隣り合わせであることを頭の片隅に置いておかなければなりません。そして、その危険な症状を理解し、日頃から目を配るようにしましょう。

特に、発情出血(ヒート)の終了から1〜2ヶ月後の期間に、「異常な量のお水を飲む」「おしっこの回数が多い」「元気や食欲がない」「陰部を気にしている」といった初期症状が現れたら、すぐに動物病院を受診してください。

10. 引用文献

  • Smith FO. Canine pyometra. Theriogenology. 2006;66(3), 610-2.
  • Jitpean S et al. Breed variations in the Incidents of Pyometra and Mammary Tumours in Swedish Dogs. Reprod Domest Anim. 2012;47 Suppl 6:347-50. 
  • Jitpean S et al. Outcome of pyometra in female dogs and predictors of peritonitis and prolonged postoperative hospitalization in surgically treated cases. BMC Vet Res. 2014;10:6.
  • Schneider R et al. Factors influencing canine mammary cancer development and postsurgical survival. J Natl Cancer Inst. 1969;43(6):1249-61.

この記事を執筆した先生は・・・

けいこくの森動物病院 獣医師 田口 仁 です。

2匹のトイプードルと一緒に暮らしています🐾

経歴

2022.9 けいこくの森動物病院 研修生として勤務
2026.3 東京大学 獣医病理学研究室 卒
2026.4 けいこくの森動物病院 獣医師として勤務

けいこくの森動物病院では、わんちゃんねこちゃんの一般診療はもちろん、歯科診療にも力を入れています。
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