2026/06/13
愛犬・愛猫を感染症から守るため、ワクチン接種は欠かせません。ワクチンの証明書がないとトリミングやドッグランに行けないこともよくご存知だと思います。一方で、「なぜ毎年打つべきなのか」「副反応が心配」と不安を感じる飼い主様も多いこともよくわかります。
この記事では、狂犬病ワクチンと混合ワクチンの違いから、ワクチンが体内でどのように免疫を作るのか、そして気になる副反応の内容、具体的な確率とその対処法まで、解説します。
特に対象とする読者:愛犬のワクチン接種を直近に控えており、ワクチンの必要性や副反応(アレルギー反応など)に対して漠然とした不安を抱えている飼い主様。
目次
1. なぜワクチンを接種しなければならないのか?
犬のワクチンは「狂犬病ワクチン」と「混合ワクチン」の2つに分けられますが、どちらも「愛犬の命を守る」だけでなく「人間社会で犬が安全に共生する」ために極めて重要な役割を担っています。猫のワクチンは一般的には「混合ワクチン」のみとされています。
① 狂犬病ワクチン
狂犬病は、発症すると犬も人間もほぼ100%死亡するという、非常に恐ろしいウイルス性の人獣共通感染症(人間と動物の間で感染する病気)です。
日本では狂犬病予防法により、生後91日以上のすべての犬に対し、毎年の狂犬病予防接種が義務付けられています。
「日本には狂犬病はないから打たなくてもいいのでは?」と思われることも多いですが、現在、日本国内での発生はありませんが、世界的には広い範囲に分布しており、いつ海外からウイルスが持ち込まれてもおかしくありません。万が一侵入した際に、国内の犬たちが免疫を持っていなければ、瞬く間に感染が拡大し、人間の命まで脅かされる大パニックになります。
そのため、狂犬病ワクチンは「愛犬を守るため」であり、同時に「社会全体を守るため」にも接種することが義務づけられています。
② 混合ワクチン
混合ワクチンは法律による義務はありませんが、重大な感染症を予防するためのものです。世界小動物獣医師会(WSAVA)のガイドラインでは、ワクチンをすべての犬が接種すべきコアワクチンと、生活環境や地理的要因によって感染リスクがある場合に接種するノンコアワクチンのの2つに分類しています。
当院では犬の5種、10種、猫の3種ワクチンをご用意しています。
| ワクチンの種類 | 予防できる主な病気 | 特徴と選び方の目安 |
|---|---|---|
| 犬 5種混合 (コアワクチン) |
|
すべての犬に必須。 室内飼いの小型犬など、感染リスクが標準的な場合に推奨されます。 |
| 犬 10種混合 (5種+α) |
|
キャンプや川遊びに行く子、ネズミが出る地域に住む子に。レプトスピラ(人獣共通感染症)を広くカバー。 |
| 猫 3種混合 (コアワクチン) |
|
すべての猫に必須。 完全室内飼いの猫でも、飼い主の衣類経由などで感染するため接種が推奨されます。 |
なお、これらのウイルスは都市部であってもタヌキやハクビシンなどの野生動物が保有していることがあり、その体液や糞尿を介して、お散歩中の草むらから感染するリスクが現在でも存在します。
一部のウイルスは非常に生存力が高く、飼い主様の靴の裏や衣服に付着して室内に持ち込まれるリスクがあります。また、災害時の避難所や、急な病気で動物病院に入院する際など、他の犬と接触する機会はゼロではため、接種することを推奨します。
免疫力の観点から、身体の負担を減らすためにも、当院では狂犬病ワクチンを先に接種し、1週間以上あけてから混合ワクチンを接種するようご案内しています。また、万が一重篤な副反応(アレルギー反応)が起きた際に、どちらのワクチンが原因か特定できなくなってしまいます。
2. ワクチンを接種すると体内で何が起こるのか?免疫獲得の仕組み
では、ワクチンが体内に入ると、愛犬の身体の中では何が起こっているのでしょうか?
簡単に言えば、ワクチン接種とは「安全な予行演習をして、本物の病原体が来た時に備える」行為です。
ワクチンの成分には、毒性をなくした(あるいは極めて弱くした)ウイルスや細菌の一部(抗原)が含まれています。これを体内に注射すると、以下のようなプロセスが進みます。

- 発見: ワクチンが体内に入ると、マクロファージや樹状細胞と呼ばれる見回り役の細胞(抗原提示細胞)がを発見し抗原を捕食します。
- 情報伝達: 抗原提示細胞は、「こんな敵が来ました!」という情報を、免疫の司令塔であるT細胞(ヘルパーT細胞)に伝えます。
- 武器の製造: ヘルパーT細胞からの命令を受けたB細胞が、そのウイルス専用の武器である抗体を大量に作り出します。
- 記憶: ここが最も重要です。一度戦い方を覚えたB細胞の一部は、メモリーB細胞(記憶細胞)として体内に長く留まります。
もし将来、散歩中などに「本物のウイルス」が体内に入ってきたとしても、このメモリーB細胞が「あ!こいつは予行演習でやったやつだ!」と即座に反応し、ウイルスが増殖する前に素早く大量の抗体を作って処理してくれます。これが免疫の力です。
なお、ワクチンには「生ワクチン(毒性を弱めた生きたウイルス)」と「不活化ワクチン(完全に死んだウイルス)」の2種類があります。生ワクチンは免疫が強力に長持ちしやすい反面、不活化ワクチンは免疫の持続期間が短いため、より定期的な追加接種が必要になる傾向があります。狂犬病ワクチンやレプトスピラワクチンは不活化ワクチンに分類されます。
頻回のワクチン接種は膜性腎症という腎臓の疾患のリスクを高める可能性について研究されており(Songaksorn et al., 2021)、より負担を減らすため、抗体価検査を選択される飼い主様も増えてきています。デメリットとしては、抗体価が十分でなかった時にワクチン接種が必要になり二度手間になること、費用はワクチン接種と同程度であること、検査に1週間程度かかること、採血すること、レプトスピラは調べられないことなどがあげられます。
3. ワクチンの副反応の概要と具体的な発生リスク(疫学データ)
飼い主様が最も心配されるのが、副反応(アレルギー反応)です。体にとって異物(ワクチン)を入れる以上、免疫が過剰に反応してしまうリスクはゼロではありません。しかし、過度に恐れる必要がないように、実際のデータを見てみましょう。
副反応の種類
- 軽度〜中等度の反応: 接種部位の腫れ、一時的な発熱、元気消失、食欲不振がみられることがありますが、通常は1〜2日で自然に治まります。一般的には処置は不要です。これらは「免疫がしっかり反応して抗体を作っている証拠」でもあります。
- 全身性の過敏症(アレルギー反応): 処置が必要な重篤な副反応です。顔面の腫脹(ムーンフェイス)や蕁麻疹(じんましん)、嘔吐、下痢といった症状が、接種後6時間以内に現れることがあります。
- アナフィラキシーショック: 極めて稀ですが、最も重篤な反応です。血圧低下、呼吸困難、虚脱(ぐったりして倒れる)などの症状が接種後数分〜30分以内に発生し、最悪の場合は命に関わります。
ワクチン副反応の代表的な症状(顔面腫脹でマズルや目の周りが腫れている犬のイラスト)と、緊急性が高い症状(呼吸困難、虚脱)のリストをまとめたインフォグラフィックを挿入してください。
実際の発生確率はどれくらいなのか?
アメリカで120万頭以上の犬を対象に行われた大規模な調査(Moore et al., 2005)によると、ワクチン接種後3日以内に何らかの副反応が記録された割合は、1万頭あたり38.2頭(約0.38%)でした。また、同著者らによる近年の大規模調査(Moore et al., 2023)でも、副反応の報告率は0.19%(1万頭あたり19.4件)と非常に低い水準にとどまっています。
日本での大規模調査(Miyaji et al., 2012)も報告されています。
混合ワクチンを接種した約5万7千頭を調査した結果、副反応を示したのは0.63%(359件)で、その83%(299件)は12時間以内に発生しました。
359件の副反応のうち皮膚症状は68%(244件)、消化器症状は45%(160件)で認められました。特に、緊急を要するアナフィラキシーショックは0.07%(41件)で、死亡例はそのうち1件でした。アナフィラキシーの約半数は5分以内に、最大1時間以内に発生していました。
また、日本の狂犬病ワクチンに関する15年間の調査(Ohmori et al., 2021)では、狂犬病ワクチンによるアナフィラキシーの発生率は10万頭あたり0.15頭という極めて低い数字が報告されています。
当院でも顔が腫れ上がるような重篤な副反応には2年〜3年に1度遭遇するかどうかというレベルです。
過去にアレルギー反応が出た子は、次回も同様またはそれ以上の反応が出るリスクがあります。事前に過去の症状を伝え、ご相談の上でワクチン接種を検討しましょう。場合によっては、狂犬病ワクチンでは接種を見送ることもあります(狂犬病予防注射猶予証明書をお渡しします)。
4. 動物病院での接種前の診察と処置の流れ
動物病院では、副反応のリスクを最小限に抑え、安全にワクチンを接種するために、必ず接種前に診察を行います。ワクチンは「健康な動物」に打つのが大前提だからです。
| ステップ | 内容と目的 |
|---|---|
| 1. 問診 | 最近の食欲、活動性の変化がないか、過去のワクチン副反応の有無、持病の有無を確認します。 |
| 2. 身体検査 | 体重測定、聴診(心音・呼吸音の確認)、触診、体温測定を行います。少しでも熱があったり、リンパ節が腫れていたりした場合は、その日の接種を延期します。 |
| 3. 接種 | 犬の場合は首の後ろから背中にかけての皮下(皮膚の下)に接種することが多いです。猫の場合は大腿部の皮下に接種します。 犬の皮下はゆとりがあるため、人間が筋肉注射を受けるほどの激しい痛みは伴いません。 |
当院では、わんちゃんねこちゃんがなるべく怖がらないように、おやつを舐めさせながら打ったり、飼い主様に優しく声をかけてもらいながら(保定の協力をお願いしながら)素早く接種するようにしています。
ただし、動物病院に行く時に車酔いをしやすい子や、極度に緊張して吐いてしまうような子の場合は、接種の2〜3時間前には食事を済ませるか、少なめにしておくことをお勧めします。副反応で嘔吐した場合に、誤嚥(気管に入ってしまうこと)のリスクが高まるためです。
5. ワクチン接種後の自宅での正しい過ごし方は?
ワクチン接種は「打って終わり」ではありません。体の中では、上記のように、抗体を作るための免疫反応が起こっています。そのため、接種後の過ごし方も重要です。
最も大切なのは、「接種当日は安静に過ごし、体調の変化がないか観察する」ことです。
- 激しい運動の禁止: ドッグランで走り回ったり、長時間の散歩は避けましょう。排泄のための短い散歩にとどめ、家の中でゆっくり休ませてください。
- シャンプーの禁止: 接種後数日間はシャンプーを控えてください。免疫機能が低下している中、体力を消耗するため、体調を崩す原因になります。
- 接種後1時間は特に注意: アナフィラキシーショックは半数は5分以内に、最長でも1時間以内に発生します。接種後10分くらいは院内で過ごすようにすると安心です。
- 夜間の観察: 帰宅後も、顔が腫れていないか、痒がっていないか、嘔吐や下痢がないかをこまめにチェックしてください。
これらの理由から、当院ではワクチン接種はなるべく午前中にお願いしています。
免疫反応を高めるための添加物(アジュバント)に対する局所的な炎症反応として、しこり(肉芽腫)ができることがあります。通常は長くても1ヶ月程度で自然に吸収されて消えます。ただし、猫では0.01〜0.01%の割合で、ワクチンの接種部位に繊維肉腫(悪性腫瘍)が発生することがあるため、経過が長かったり増大傾向にある場合はすぐにご相談ください。
6. まとめ:愛犬・愛猫の健康と命を守るためにできること
ワクチン接種は、感染症から身を守るために行います。副反応というリスクを完全にゼロにすることはできませんが、疫学データが示す通り、重篤なリスクは極めて低く、アレルギー反応に対しても適切な処置を行うことができます。ワクチンによって救われる命の方が圧倒的に多く、トリミングやペットホテル、ドッグランなどを利用することもできるようになります。
飼い主様は、愛犬・愛猫のその日の体調をしっかり把握し、不安なことがあれば接種前に必ず獣医師に相談するようにしてください。
そして、なるべく午前中に接種を受け、接種後は家でゆっくりと見守ってあげてください。
7. 引用文献
- Songaksorn N, et al. Prevalence of autoantibodies that bind to kidney tissues in cats and association risk with antibodies to feline viral rhinotracheitis, calicivirus, and panleukopenia. J Vet Sci. 2021;22(3):e38.
- Moore GE, et al. Adverse events diagnosed within three days of vaccine administration in dogs. J Am Vet Med Assoc. 2005;227(7):1102-8.
-
Moore GE, et al. Breed, smaller weight, and multiple injections are associated with increased adverse event reports within three days following canine vaccine administration. J Am Vet Med Assoc. 2023;261(9):1333-41.
-
Miyaji K, et al. Large-scale survey of adverse reactions to canine non-rabies combined vaccines in Japan. Vet Immunol Immunopathol. 2012;145(1-2):447-52.
-
Ohmori T, et al. Anaphylaxis after rabies vaccination for dogs in Japan. J Vet Med Sci. 2021;83(8):1202-1205.
この記事を執筆した先生は・・・
けいこくの森動物病院 獣医師 田口 仁
経歴
| 2022.9 | けいこくの森動物病院 研修生として勤務 |
| 2026.3 | 東京大学 獣医病理学研究室 卒 |
| 2026.4 | けいこくの森動物病院 獣医師として勤務 |
けいこくの森動物病院では、丁寧な問診と徹底した体調管理のもと、安全なワクチン接種を心がけています。
東京都世田谷区、等々力、玉川、上野毛、尾山台、自由が丘、田園調布で愛犬・愛猫の予防医療にお困りの方はご相談ください。
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